ヤンキーくんは意外に甘い

3話

○カフェ(プティ・アマンチ)/店内入り口付近

【憧れの喫茶店が】【不動くんのお家だったなんて――】

憧れていたレトロな雰囲気の喫茶店の空間を信じられない顔をしてながめる花梨
丈「母さん、奥いい?」
丈の母「いいけど……女の子連れなんてめずらしいわね。彼女? いやまさかねえ」
丈の母は美人で、快活に笑う。
丈「悪いか。彼女だよ」
丈の母「えっ!?」
信じられない顔をする母に、花梨は頭を下げた
花梨「あっ…初めまして! 真鍋花梨です」
(さすがに勘違いです! なんて今は言えないよ…)
丈の母「まさか丈に彼女ができるなんて……。花梨ちゃんね、ゆっくりしていってね」
花梨「は、はい! お邪魔します!」
店内を通り、奥に続く扉を開ける。そこは休憩室だった
花梨「行列だったのに、本当にいいの?」
丈「ああ。ここはスタッフしか入れないとこだから。それともあっちのフロアのほうがよかったか?」
花梨「う、ううん、お店が大丈夫ならここで……」
丈「なに食べる?」
メニューを手渡され、広げると夢のようなメニュー。パフェ、ケーキ、軽食など様々ある。ドリンクもたくさんあって、悩む花梨
(でもやっぱりこの喫茶店といえば…)
花梨「フルーツパフェがいいな」
丈「飲み物は?」
花梨「ええと、アイスティーで!」
丈「わかった。ちょっと待ってろ」
丈は休憩室を出ていき、一人になる花梨

【まさかあのプティ・アマンチに来られただけじゃなくて、奥にまで入っちゃうなんて…】【しかもあの有名なパフェを食べられるんだ】

(うれしくてどうにかなっちゃいそう!)
休憩室のドアが開く。
丈「お待たせ」
花梨「あ、はい!」
丈はトレイを持ち、その上にはパフェとパンケーキ、ドリンクが乗っている。それらをテーブルに並べていく丈
花梨「……これがあの有名なフルーツパフェ……」
花梨は感動のあまり写真を撮りまくる
丈「溶けるからはやく食えよ」
花梨「う、うん。じゃあ……いただきます!」
花梨は緊張気味にそっとスプーンでパフェをすくう。フルーツとクリーム、アイスを一緒に口に運ぶ。口に入れた瞬間、目を輝かせる
花梨「ふぁああ……お、おいしすぎる……!」
感動した花梨はゆっくり味わいたいのにぱくぱくと食べ進めてしまう
花梨「果物が瑞々しくってさっぱりしたクリームとぴったり。なのにバニラアイスは濃厚でなんでこんなにおいしいのか全然わからない!」
丈「ふ」
丈が口元に手をあてて笑い出す
花梨「へ、変だった?」
丈「……いや。可愛い」
笑顔を残したまま
花梨「っ!」
(あの不動くんがこんな顔するなんて……っ!)
丈「パンケーキも食うか?」
花梨「い、いいの?」
丈「ああ。ほら」
丈がフォークに刺した一口大のパンケーキを差し出される。
花梨「え、あの」
丈「口開けろって」
花梨「ええ! 無理無理!」
丈「いいから。食べたいだろ?」
花梨「う……」
花梨はおずおずと口を開けて、思い切ってパンケーキをぱくりと食べる
花梨「ふわふわでおいしい……!」
丈「だろ? パフェが有名だけど他のもうまいよ」
口をもぐもぐとしながらこくこくうなずく花梨
花梨「本当だね……! メニュー制覇したくなっちゃうよ…」

【噂通り、ううん想像以上のおいしさ】

(し、しあわせ……!)

○店内
帰りにレジにいる丈の母に挨拶をする花梨
花梨「今日は本当にありがとうございました。あの、おいくらですか?」
丈の母「いいいい、丈の彼女にお金なんてもらえないわ」
花梨「そんな! 申し訳ないですクッキーのお土産までもらって…」
(私、本物の彼女じゃないんです…!)
丈の母「いいのいいの。丈をよろしくね」
花梨「……ありがとうございます。ご馳走様です」
丈の母「丈にはもったいないくらいの良い子じゃないの。あんたちゃんと送っていきなさいよ!」
丈「わかってるって」
面倒そうに返事をしながら店のドアを開ける丈

○店外/夕方
花梨「元気なお母さんだね」
丈「ああ。元気すぎてうるさいくらいだ」
花梨「……今日はありがとう。クレープ屋さんにも連れて行ってくれたし、この喫茶店にも連れてきてもらったし」
(まさか不動くんの家だとは思わなかったよ…すごい偶然)
丈「家だから気にすんな。送る」
花梨「だ、大丈夫だよ! まだ明るいし」
丈「だめだ。送る」
睨むように言われて花梨は怯んだ
花梨「……ありがとう。じゃあ駅までお願いします」
丈「わかった」
丈は花梨の手首を掴み、歩き始める。小走りになる花梨
花梨「ま、待って不動くん! 歩くのはやい…!」
丈「……悪い。慣れてなくて」
手首を掴んでいた手は花梨の手を握り直す
(手、手が……っ!)
黙ったまま歩く二人
(あ。しかもさっきよりゆっくり歩いてくれてる)
ぎゅっと握られる手
(不動くんの手、こんなに大きいんだ…)
顔を赤くし、うつむく花梨

【今日はすごい一日だった】【結局本当のことを言えないまま】【一気に不動くんとの距離が近くなっちゃったな…】

○翌朝/学校/教室
花梨は自席に座り、研究ノートを読み返している
(クレープもパフェもおいしかったなぁ…次はいつ行けるかな)
凛子「おはよ、花梨!」
親友の凛子が登校してくる
花梨「おはよう凛子」

【彼女は深谷凛子。友だちが少ない私の唯一の親友】【凛子は私と違って美人でモテる】【どうして親友なのか不思議なくらいだ】

前の席に座る凛子
凛子「なにしあわせそうな顔して」
花梨「わかる? ほら見て」
スマホの写真を凛子に見せる
凛子「うわ、おいしそう!」
花梨「でしょう!?」
凛子「昨日行ったの?」
花梨「うん。ここが実は……あ」
(不動くんのことは秘密なんだった)
凛子「なになに?」
花梨「ううん、なんでもない」
凛子「なーにその顔!」
花梨「なんでもないってば!」
(しかも誤解で付き合うことになったなんて恥ずかしくて凛子にも言えない…!)
ガラガラとドアが開き、丈が教室に入ってきた瞬間、クラスが静かになる。
凛子「うわ、今日も目つき悪……」
凛子は丈を見て呟いた。
(本当。昨日まではすごく怖い人だったのに。あんな顔して甘いものが好きなんだもんねえ…)
スマホが鳴り、メッセージの到着を知らせる。見ると丈からでドキッとする
丈メール<今日から一緒に帰ろう>
(本物の恋人ならそうしたいけど…)
花梨メール<ごめん! 今日はバイトだから急いで帰るんだ>
丈メール<わかった>
ほっとしてスマホを仕舞う花梨
凛子「花梨、何してるの?」
花梨「う、ううん! 音消し忘れたと思っただけ」
凛子「……ふーん?」
(なるべくはやく、不動くんの誤解を解かなくちゃ…)
花梨のほうをじっと見ている丈。花梨は気付かない

○バイト先のカフェ(チェーン店)/放課後夕方
カフェの制服に着替え、フロアに入る花梨
花梨「おはようございまーす」
玉井「おはよう、真鍋さん」

【彼はバイト先の先輩、玉井直哉さん】【バイトに入った時からお世話になっている優しい先輩だ】

玉井「カフェ巡りはどうだった?」
花梨「あ……す、すごく楽しかったです!」
玉井「何かあったの?」
(凛子といい玉井さんといい、鋭すぎる!)
花梨「何もないですよ~」
(凛子にも言えないのに玉井さんに話せるはずがない!)
ドアが開く音
花梨「いらっしゃいませー」
玉井「……珍しいお客さんだね」
花梨「え?」
入り口の方を見ると、きょろきょろとしながら入ってくる丈の姿があった
(えっ! 不動くん!?)
驚く花梨
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