モノクロの僕と、色づく夏休み
第13話「真夜中の訪問者」
オレは二年前に出会った少年(いや、女の子だったんだけど)、蘇芳アキラとの再会で、すっかり放心状態だった。
自分が信じていたものが、崩れて行く時……きっとそれがこんな状況だ。
おかげで、ばあちゃんが腕によりをかけた、夕飯の味も分からなかったし、風呂に入れば、長湯してのぼせる始末だった。
人って、あんなに変わるものなのか……と信じられない思いもあったが、アキラ本人がそう言っている以上、信じないわけには行かなかった。
アキラの信じられないほどの成長を、健康そうになって良かったと思う反面、身勝手だけど少し寂しく感じた。
それに……
オレは静まりかえる暗い寝室の天井を、ぼーと眺めた。
もう、考えるのはよそう。
オレは目を閉じて、深い眠りに落ちて行った。
***
『こうへい……』
だれかが、オレを呼ぶ声が聞こえる……。
『こうへい』
だれ……?
「皓平!!」
「……はっ!!」
オレはその声で目が覚めた。
いつもオレを起こす、目覚ましのベルとは違かった。
すぐ目の前にアキラの顔があって、オレは何が何だか分からなくなり、呼吸するのをしばらく忘れてしまった。
オレはこの状況を理解するのに、だいぶ時間を要した。
「お……おま……お前、こんなところで、な……何やってるんだよ!」
呂律が上手く回らない。
部屋を見渡せば、辺りは暗い。多分まだ夜中だろう。
寝坊したオレを、起こしにくるシチュエーションだとしても、時間的に早すぎる。
「ん? 夜這いよ、夜這い」
「……よ……、よばっ……」
アキラの口から出た言葉に、オレは耳の辺りがカッと熱くなった。
そんな自分に気がついて、必死に冷静さを取り繕うとしたが無理だった。ドキドキした心臓は、急には治まらなかった。
「まあ、それは冗談だけど、皓平ちょっと付き合って」
「は?」
付き合うって、何に?
オレがきょとんとしてると、アキラは軽い調子で、オレの着ていた浴衣の襟元に手を入れて、そのままオレの浴衣を脱がせようとした。
オレは慌てて、アキラの手を掴んだ。
「いきなり、な、何するんだ、お前は!」
「あんまり時間がないのよ。さっさと着替えて」
自分とは逆に、アキラは至って冷静で、オレは面白くなかったが、寝起きだったこともあって、アキラから主導権を奪うことは出来なかった。
……寝起きでなくても、奪えないかもしれないけど。
「分かったよ、着替えるから、ちょっと待てよ!」
「早くしてよ」
「……」
「何よ?」
「……出てって、欲しいんだけど」
「何? 男のくせに、恥ずかしいわけ?」
オレはアキラの言葉に、ぶち切れた。
「お前には、羞恥心とかないのか! もう、知らん! このまま寝なおすぞ!」
「……分かったよ……玄関前にいるから、早くしてよ!」
アキラは、部屋をしぶしぶ出て行った。
アキラが出て行くと、頭に上っていた血が急に降りてきた。
オレは静かになった部屋で、私服に着替えながら考えた。
付き合うって、オレに何をさせる気なんだろう?
さっきの強引さからいって、ろくでもないことに違いない。
オレは寒気で身震いがした。
なのに、体の一部だけはいつまでも熱かった。
さっき、アキラに触れられた首元……
まだ、アキラの指の感触が残っている。
オレが本当に嫌だったのは、アキラが二年前と、まるで違っていたことじゃなく、そんなアキラを目の前にして、自分がオタオタしていることだ。
アキラが実は女の子で、急に綺麗になってて……そんなことを意識してる自分が、ものすごく嫌だった。
つづく
自分が信じていたものが、崩れて行く時……きっとそれがこんな状況だ。
おかげで、ばあちゃんが腕によりをかけた、夕飯の味も分からなかったし、風呂に入れば、長湯してのぼせる始末だった。
人って、あんなに変わるものなのか……と信じられない思いもあったが、アキラ本人がそう言っている以上、信じないわけには行かなかった。
アキラの信じられないほどの成長を、健康そうになって良かったと思う反面、身勝手だけど少し寂しく感じた。
それに……
オレは静まりかえる暗い寝室の天井を、ぼーと眺めた。
もう、考えるのはよそう。
オレは目を閉じて、深い眠りに落ちて行った。
***
『こうへい……』
だれかが、オレを呼ぶ声が聞こえる……。
『こうへい』
だれ……?
「皓平!!」
「……はっ!!」
オレはその声で目が覚めた。
いつもオレを起こす、目覚ましのベルとは違かった。
すぐ目の前にアキラの顔があって、オレは何が何だか分からなくなり、呼吸するのをしばらく忘れてしまった。
オレはこの状況を理解するのに、だいぶ時間を要した。
「お……おま……お前、こんなところで、な……何やってるんだよ!」
呂律が上手く回らない。
部屋を見渡せば、辺りは暗い。多分まだ夜中だろう。
寝坊したオレを、起こしにくるシチュエーションだとしても、時間的に早すぎる。
「ん? 夜這いよ、夜這い」
「……よ……、よばっ……」
アキラの口から出た言葉に、オレは耳の辺りがカッと熱くなった。
そんな自分に気がついて、必死に冷静さを取り繕うとしたが無理だった。ドキドキした心臓は、急には治まらなかった。
「まあ、それは冗談だけど、皓平ちょっと付き合って」
「は?」
付き合うって、何に?
オレがきょとんとしてると、アキラは軽い調子で、オレの着ていた浴衣の襟元に手を入れて、そのままオレの浴衣を脱がせようとした。
オレは慌てて、アキラの手を掴んだ。
「いきなり、な、何するんだ、お前は!」
「あんまり時間がないのよ。さっさと着替えて」
自分とは逆に、アキラは至って冷静で、オレは面白くなかったが、寝起きだったこともあって、アキラから主導権を奪うことは出来なかった。
……寝起きでなくても、奪えないかもしれないけど。
「分かったよ、着替えるから、ちょっと待てよ!」
「早くしてよ」
「……」
「何よ?」
「……出てって、欲しいんだけど」
「何? 男のくせに、恥ずかしいわけ?」
オレはアキラの言葉に、ぶち切れた。
「お前には、羞恥心とかないのか! もう、知らん! このまま寝なおすぞ!」
「……分かったよ……玄関前にいるから、早くしてよ!」
アキラは、部屋をしぶしぶ出て行った。
アキラが出て行くと、頭に上っていた血が急に降りてきた。
オレは静かになった部屋で、私服に着替えながら考えた。
付き合うって、オレに何をさせる気なんだろう?
さっきの強引さからいって、ろくでもないことに違いない。
オレは寒気で身震いがした。
なのに、体の一部だけはいつまでも熱かった。
さっき、アキラに触れられた首元……
まだ、アキラの指の感触が残っている。
オレが本当に嫌だったのは、アキラが二年前と、まるで違っていたことじゃなく、そんなアキラを目の前にして、自分がオタオタしていることだ。
アキラが実は女の子で、急に綺麗になってて……そんなことを意識してる自分が、ものすごく嫌だった。
つづく