モノクロの僕と、色づく夏休み

第15話「あの日、出来なかったこと」

 田舎道なので外灯はまばらだったが、月が出ていたので、そんなに視界の悪さは気にならなかった。

 普段、自分が乗っている自転車は、暗くなると勝手にライトが点灯する、ごく普通の自転車だったので、全く気にしていなかったが、アキラが持ってきた自転車は、手動でライトを点けるタイプで、それに気が付くのに、しばらく時間が掛かった。

 ライトを点灯すると、途端に負荷が掛かり、ペダルが重くなる。なんだこの旧式自転車!

 アキラはオレの後ろで「漕ぐの変わろうか~?」とニヤニヤしている。

 もし一人だったら、面倒だとライトを切ってしまったかもしれないが、ここまで煽られて、絶対切るわけには行かないと思った。

 田舎の夏の夜というのは、不思議と都会ほど蒸し暑くないのだ。涼しいと感じる時さえある。

 ライトの負荷と、アキラの体重分は重かったが、それでも夜のサイクリングは、思いの外、気持ちいいと感じた。

 そんな気分だったので、オレはフッとアキラに話を振ってみた。

「……オレさ、ずっと気になってたんだけど、なんで、お前オレのこと、呼び捨てなんだよ?」
「は?」
「お前、オレより年下だろ?」

 だよな……一応?

 アキラの両親が挨拶に来た時、名前は聞いたが、年はちゃんと聞かなかった気がする。

「学年はね。でも年は同じじゃない? 皓平、まだ十三歳でしょ?」

 オレは秋生まれなので、中二だが、まだ十三歳だ。
 
 って、……同い年ってまさか……

「私も十三歳だよ。中一だけどね」

 一つしか、違わなかったのか……
 じゃ、初めて会った時は、小五だったってこと?

「それに私、自分より背の低い男は、呼び捨てにする主義だから」

 ハハハと、アキラが軽快に笑った。

 ぐわっ!

 おのれ……いけしゃーしゃーと!!

 二年前は、あんなにチビだったくせに!!
 くそー! 今に見てろ、この女!!

 オレはとりあえず腹に溜まった怒りパワーで、自転車のスピードを上げた。

***

 もう一時間くらいは、自転車を漕いでいた。

 祖父母の家を出たばかりの余裕は、もうオレにはなくなっていた。
 
 足の疲労と、吹き出している汗が体にまとわりつき、体力が大分落ちて来ているのが、自分でも分かる。だから夏は嫌なんだ。

 でも、疲れたとは絶対言いたくなかった。
 それに、ここで漕ぐのをやめるということは、オレの知りたかった答えに、たどり着けない気がした。

 行く道の途中、目的を話すって言ったのに……アキラのやつ、寝ちゃったのかな?

 そういえば二年前のあの日、アキラは電車の中で、ぐっと目を閉じたままだった。

 ――嵐の前の静けさのように。

「このペースだと、後三十分くらいかな? 疲れたんなら、代わろうか?」

 アキラが絶妙なタイミングで、口を開いた。

「全然、疲れてねーよ! それより、駅に何の用があるんだよ?」
「正確には、駅じゃないんだけどね」
「え?」

「あの日、出来なかったことを、もう一度やり遂げに行くのよ」

 アキラの声は、薄暗い田舎道に静かに響いた。

 あの日……出来なかったこと……

 それは……


つづく
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