モノクロの僕と、色づく夏休み
第17話「アキラの告白」
俺は疑問に思っていたことを、素直にアキラに投げかけた。
「……それじゃ、どうしてこの山に?」
「暁生さんがこの山で、本当に神様に逢って願いが叶った……なんていうから……腹立たしかったの。どんな願いも叶うなんて……そんな都合のいいこと、あるわけないのに」
「アキラ……」
「私、延び延びになってた手術を受けることになってて……きっと暁生さん、私を励ますつもりだったんだろうけど……私の手術に対する不安を見透かされてるみたいで、すごく嫌だった……まあ、実際ビビってたんだけどね」
ハハ……とアキラは、乾いた微笑みを浮かべた。
俺は生まれてこのかた、病気らしい病気なんかしたことがなかったし、入院だの、手術だの……まるで別世界の話だった。
手術を受ける前の患者の気持ちなんて、到底分かるわけもなかった。
ただあの気の強いアキラが、ビビるくらいだ……相当不安だったのだろう。
「大人たちはみんな……大丈夫だよって、私を慰めたけど……不安で……そんな言葉だけじゃ、信じられなかった。もし……手術が失敗して、今よりもっと、面倒くさい体になったらどうしようって……今だって充分、普通の生活送れなくて入院してるくらいなのにって……」
「そんなに体、悪かったのか?」
「まあね。ちょっとしたことでも、すぐ入院するくらいには」
「そうだったのか……」
今のアキラを見ただけでは、想像もつかないが、あの日の夜の、アキラの痛々しいくらい細くてもろそうな腕を思い出せば、確かに肯ける。
小五の割に、随分体が小さかったのは、体が悪かったせいなのかもしれない……
「……でも、健康な体も手に入れたかった。だから試そうと思ったの」
「試すって、何を?」
「手術が成功するか……私がこの世界に、存在していてもいい人間なのか……自分の運を試したかった」
「それじゃ……」
「要はあの日、この山に願懸けしにきてたのよ」
「願懸け?」
「そう……もし自分一人で、この山を登りきったら、手術は成功するって……」
今、分かった……
あの日、アキラが何故一人だったのか。
なぜ、あんなバカな真似をしていたのか……そのくらいの無茶を乗り越えないと、自分の可能性を信じられなかったんだ。
アキラのそんな気持ちを思うと、俺は急に胸が押しつぶされるように、苦しくなった。
つづく
「……それじゃ、どうしてこの山に?」
「暁生さんがこの山で、本当に神様に逢って願いが叶った……なんていうから……腹立たしかったの。どんな願いも叶うなんて……そんな都合のいいこと、あるわけないのに」
「アキラ……」
「私、延び延びになってた手術を受けることになってて……きっと暁生さん、私を励ますつもりだったんだろうけど……私の手術に対する不安を見透かされてるみたいで、すごく嫌だった……まあ、実際ビビってたんだけどね」
ハハ……とアキラは、乾いた微笑みを浮かべた。
俺は生まれてこのかた、病気らしい病気なんかしたことがなかったし、入院だの、手術だの……まるで別世界の話だった。
手術を受ける前の患者の気持ちなんて、到底分かるわけもなかった。
ただあの気の強いアキラが、ビビるくらいだ……相当不安だったのだろう。
「大人たちはみんな……大丈夫だよって、私を慰めたけど……不安で……そんな言葉だけじゃ、信じられなかった。もし……手術が失敗して、今よりもっと、面倒くさい体になったらどうしようって……今だって充分、普通の生活送れなくて入院してるくらいなのにって……」
「そんなに体、悪かったのか?」
「まあね。ちょっとしたことでも、すぐ入院するくらいには」
「そうだったのか……」
今のアキラを見ただけでは、想像もつかないが、あの日の夜の、アキラの痛々しいくらい細くてもろそうな腕を思い出せば、確かに肯ける。
小五の割に、随分体が小さかったのは、体が悪かったせいなのかもしれない……
「……でも、健康な体も手に入れたかった。だから試そうと思ったの」
「試すって、何を?」
「手術が成功するか……私がこの世界に、存在していてもいい人間なのか……自分の運を試したかった」
「それじゃ……」
「要はあの日、この山に願懸けしにきてたのよ」
「願懸け?」
「そう……もし自分一人で、この山を登りきったら、手術は成功するって……」
今、分かった……
あの日、アキラが何故一人だったのか。
なぜ、あんなバカな真似をしていたのか……そのくらいの無茶を乗り越えないと、自分の可能性を信じられなかったんだ。
アキラのそんな気持ちを思うと、俺は急に胸が押しつぶされるように、苦しくなった。
つづく