モノクロの僕と、色づく夏休み

第2話「電車の旅」

 夏休みだし……やっぱこんなローカル線でも、それなりに混んでるな。

 あ……ラッキー! 席、空いてる!

「相席いいですか?」
「……」

 聞こえなかったのかな?

「あの、相席……」
「……」

 オレが相席を申し出た座の子は、オレを睨むとそっぽを向いた。

 ……ってなんだよ。気づいてるなら返事くらいしろよ!
 何かイラついたので、オレはそのまま、相手の返事を訊かずに空いている席に、ドカッと座った。

 しばらくイライラしながら、車窓の外の流れる景色を見ていた。

 同じように流れる短調な景色に飽きた頃、ちょうどお腹も空いてきた。

 時計を見たら、もう十二時を回っていたので、お昼にすることにした。
 昼食用に持たされた、お弁当と麦茶をリュックから取り出そうとして、目の前の相席した子の姿がまた目に入った。

 よく見れば大分小さい子だ。
 背丈からいって小学二、三、いってても四年生ってところだろうか?
 周りを見渡しても、この子の家族らしきものは見当たらない。

 一人旅?

 オレのように、じじばばの家に行くんだろうか?

 こんな小さな子一人で?
 まったく親は何やってるんだろう?

 放任主義もいいところだ。今どき子供を狙う悪質な変質者が、うじゃうじゃいるっていうのに……。

 まあ……あれかな?「はじめてのおつかい」みたいなノリ?

 ずいぶん大きな荷物持ってるな……。

 ……。

 ……家出とかじゃないよな?

 ……。

「あのさ……君一人なの?」
「……」

 また無視かよ……。
 聞こえないってわけじゃないよな?

 ちょっと不安になったけど、オレはもう一度声を掛けてみた。

「もしかして……耳、聞こえないの?」
「!!」

 目の前の少年はムスッとオレを睨むと、抱えていた大きなリュックに、顔をうつ伏せた。

 声は聞こえるわけか……。

 それでなお、無視なわけか……。

 オレの顔も見たくないと……。

 そんなにオレって怪しいか?


 あっそ。もう、どうでもいいや。

 完全にリュックに顔を突っ伏した少年は、寝ているようにも見えた。

 まあさっきの今で、それはないだろうと思ったけど、もう気にしないことに決めて、オレは弁当を開けてパクつき始めた。

 もうどうでもいい……と思う反面、もしかしたら口が聞けない子なのかもと、ぼんやりと考えていた。

 弁当を食べ終えて、水筒に入った麦茶を飲みながら、ぼんやり車窓の外を眺めていると、次第に眠くなってきた。

 祖父の家の最寄駅までは、まだ遠い……。

 オレはうつらうつらと、深い眠りに落ちていった。

***

 オレが目を覚ました時には、周りの乗客は殆どいなかった。

 眠い目をこすりつつ、窓の外を眺めると、見知った景色になっていた。

 毎年来ているので、さすがに覚えている。
 ここら辺は時が止まっているかのように、オレが小さな頃から何一つ変わっていない気がする。

 気が付くと、まだ相席少年は座っていた。
 リュックに顔を突っ伏したまま。
 お昼からずっと、この体制なんだろうか?

 あのまま本当に寝てしまったのかもしれないと、ぼーと考えていたら、車内アナウンスが流れた。それとほぼ同時に、少年は勢いよく顔を上げた。

 オレは思わず、ビックリして飛びのきそうになった。
 少年のあまりの鋭い眼差しに、また睨まれているのかと思ったが、それは間違いだとすぐ気がついた。

 少年は目の前のオレのことなど、見ていなかった。

 まるでオレの体を透かして、遠くの何かと、対峙しているようにも見える……そんな眼差しだった。


つづく
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