モノクロの僕と、色づく夏休み

第3話「終着駅」

 毎年思うことだけど、同じ日本か⁉︎ と思うくらいの過疎(かそ)っぷり……。
 
 駅前に、店一つないなんて……。

 ぽつんと立っているバス停の存在が、奇跡に思える。
 この時間だと一時間に一本のペースで、なんとかバスがある。
 時刻表を見たら、もうすぐバスが来るようで安心した。
 というか、このバスの時間に合わせて、電車を選んで来たんだけどさ。

 そう言えば一緒の駅に降りた、デカリュック少年はどうしたんだろう?
 田舎は車移動が基本なので、だれかが迎えに来るのかもしれない。

 ちょっと駅周辺を見渡して見た。
 人気もないので、モスグリーンのデカリュックはすぐ目に入った。
 
 少年は駅の周辺案内板をしばらく眺めていたが、だれかの迎えを待つことなく、駅前の微妙に舗装された道を、一人で歩きだした。

 ……歩き?

 オレが、デカリュック少年の行動にあっけに取られていると、クラクションが鳴った。
 すぐそこまでバスが来ていた。

 歩いて行った少年のことが、少し気になったが、オレはバスに乗り込んだ。
 空いている席に適当に座ると、ドアが閉まり、バスがゆっくり発進した。

***

 心地よい早さで、窓の景色が流れて行った。
 車内には、オレと運転手以外だれもいない。バスのエンジン音や、外から微かに聞こえて来る虫や鳥の声以外、何も聞こえない。

 静かだ……。

 平穏な静かさって、こういうことを言うのかもしれないと、流れる景色を眺めながら、ぼんやり思った。

 電車内で眠ったせいか、バスの中ではあまり眠くならなかった。
 スマホの電波も入りづらく、することがなくて暇なので余計なことが頭をよぎる。

 このあたりは、観光名所も特にない静かな土地だ。
 あの少年が歩いて行った先に、民家なんかあっただろうか?

 あるのは、山くらいじゃなかったか?
 あいつ……何しに行くんだろう?

 ……。


 どうでもいいか……。オレには関係ないし。

 ……。

 ……。

 山か……。
 
 ……最近流行ってる、虫捕りか?

 あんな小さな子供が一人で、こんなところまで来て?

 もうそろそろ、陽も傾き始めるのに?

 ……。



 ……まさか自殺とかじゃ、ないよな?

 リストラされた未来に明るい希望もなくなってしまった、サラリーマンじゃあるまいし……。

 オレは親が観ていた、ドラマの内容をフッと思い出した。
 
 それにあんなに大きなリュックを背負って、自殺はないだろ。

 オレは何だか必死になって、自殺説を否定しようとした。
 でもあの方向に子供が一人で歩いて行くほかの理由は、なかなか思い当たらなかった。

(……)



 どうしよう……?

 いや、別に関係ないんだけど。

 どうせもう、会うこともないだろうし。

 ……。

 ……。


 オレは少年のことを、振り切るかのように頭を振って目を閉じた。
 そのまま全て忘れて、眠ってしまいたかった。

 ……もし、ここでバスを降りたら、バスに再び乗れるのは一時間以上先になってしまう。

 関係ないじゃん、あんなやつ。別にどうなったっていい……。

 ……。

 ……。

 オレはそう自分に言い聞かせながら、バスの車窓の外を流れて行く景色を、黙って見つめていた。


つづく
< 3 / 20 >

この作品をシェア

pagetop