モノクロの僕と、色づく夏休み

第5話「家出少年?」

 もしオレが、このままあいつを放っておいて、遭難でもされたら……
 
 途端にゾワッと鳥肌が立つ。凄まじい寒気。
 
 大変な騒ぎになるだろう。さすがのオレでも、そのくらいは簡単に想像がつく。

 とりあえず無理やりにでも下山させて、駐在所のお巡りさんにでも預ければ、オレの気も済む。

 オレは慌てて、デカリュック少年の後を追いかけた。

***

「おい! 待てよ!!」
「うるさいなー! 何なの、あんた?」
「その年で家出して、どうやって生活して行く気だよ!」
「どーだっていいだろ、あんたに関係ないじゃん!」

 やっぱり、家出少年決定か?

「関係ないけど、こんなところで遭難して死なれでもしたら、オレの寝覚めが悪いんだよ!」
「知るかよ、そんなの! お前、キモいんだけど、ストーカーかよ⁉︎」



 キモ……

 ストーカーって……


 キモいはまだしも、ストーカーだなんて、生まれて初めて言われた言葉だ。

 心外だ。オレはその言葉にショックを受けて、しばらく動けなかった。もしかしたら、呼吸も止まってたかもしれない。

 オレがショックを受けている間に、デカリュック少年は、スタスタと先を歩いて行ってしまう。

 オレはそれをただ、黙って見つめることしか出来なかった。

***

 オレはその場から帰ることも、進むことも出来ずに、しばらく立ち尽くしていた。腕に蚊が舞ってイラッと腕を強めに叩いた時、時間が動き出した。

 痒い……

 だから田舎は、山は嫌なんだ……。

 今から山道を降りれば、次のバスには間に合う。もう、帰ろう。あんなガキ知るかよ! 勝手に遭難でも、なんでもすればいいんだ!

 そう思っているのに、足が動かない。

(……)

 何、やってるんだろう?

 悔しいような、泣きたくなる気持ちが心に渦巻くのに、あの少年のことが頭から離れない。名前も知らないやつなのに。


 オレはハアッと深呼吸した。

 いつもの自分なら、考えられなかった。積極性とは真逆な性格なのだ。面倒ごとは、出来れば回避したいと思って生きていた。なのに――

「ああ、もう!」

 オレは少年の歩いて行った方に、走り出していた。


つづく
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