お飾り王妃は華麗に退場いたします~クズな夫は捨てて自由になっても構いませんよね?~【極上の大逆転シリーズ】
 涼しい夜風に黒い髪をなびかせながら、ルークは目を細めた。

 出会ったのは今から五年前。

 当時十三歳だった彼は、その頃から抜きんでて体格がよかった。自分を鍛え続けた彼の体格は、今では歴戦の勇者と言っても過言ではない風格だ。

 時折鋭さを増す黒い目は、オリヴィアを見る時は柔らかく細められる。目元だけで微(ほほ)笑(え)まれる度に、オリヴィアがドキドキしているのを彼は知っているだろうか。

「……そうね」

 ルークと会うことができるのは、魔獣の動きが活発になる時期に限られている。

 幼(おさな)馴(な)染(じみ)への淡い恋心が、明確な初恋へと成長しているのを知っているのはオリヴィアだけ。誰にも告げるつもりはない。

 彼とこうして魔の森を眺めるのは、もう何度目になるのだろう。日が落ちると、吹き抜けていく風は涼気をはらむ。

「そろそろ、縁談が出てくるんじゃないか?」

「でも、私の結婚は自由にはならないと思うわ。伯父様のお許しをいただかないと」

 現在のウェーゼルク辺境伯家当主の妻、つまりオリヴィアの母は国王の妹である。

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