お飾り王妃は華麗に退場いたします~クズな夫は捨てて自由になっても構いませんよね?~【極上の大逆転シリーズ】
 結婚証明書に署名をしたら、いよいよ誓いの口づけである。古い時代には、この時初めて新郎新婦は顔を合わせることになっていたのだそうだ。

「――ふん」

 ベールを上げるグレゴールが、鼻を鳴らしたのをオリヴィアは聞き逃さなかった。この状況で、鼻を鳴らすとはどういう了見だ。

 だが、ベールを上げられ、真正面にグレゴールの表情を見て納得した。

(ああ、この方は――不満なのだわ。この婚姻が、気に入らないのね)

 青い彼の目に浮かぶのは怒り。そして、オリヴィアをさげすむ色。

 これは、前途多難になりそうだ。気がつかないふりをして、そっと目を閉じる。

(大丈夫、夫婦だもの。これから何度だって口づけをするはず)

 グレゴールの吐息が唇をかすめる。思わず肩に力が入った。

 ルークとの口づけは甘かった。

 では、グレゴールに口づけられたら、どんな気分になるのだろう?

 心臓が、やかましいほどに音を立てている。自分の鼓動しか、聞き取れなくなった。

 だが、グレゴールは唇を寄せただけ。オリヴィアに口づけることはなかった。

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