春送り〜藩医の養父と娘の禁断愛〜
第弐話 春待ち人
新天地ナガサキでの生活は、長屋に住む人たちに支えられながらの生活だった。
七さんは蘭方医の祐庵先生に師事して、朝から夕方まで家を空けていた。その間、わたしの面倒を見てくれるのは長屋に住む女性たちだった。今までは七さんに頼りきりだったわたしに、家事の仕方を優しく教えてくれた。
夕げの支度を手伝ってもらいながら七さんの帰りを待つ。その時間が好きだった。
大人の手を借りたとはいえ、わたしが初めて作った夕げを見て七さんは驚き、うんと喜んでくれた。
今日も喜んでくれるかなと思いながら作るのは、とても楽しかった。
それに、七さんはたくさん褒めてくれるから、家事には力が入った。
「七さん、はやく帰って来ないかなぁ」
「お春はほんなこて七さんが好きね」
なにかにつけて、みんなこう言ってわたしをからかって笑う。
だけど、わたしはいつも答えに困っていた。
「うん」とうなずいてしまえば、「健気で可愛い養い子」だと認められてしまう。自分でもその立場を認めてしまうような気がして、それがすごく嫌だった。
このときには、七さんをおとうの代わりにはしなくなっていた。
七さんの家族としてそばには居たいけれど、娘にはなりたくない。自分でもそう思ってしまう感情を理解できず持て余していたけれど、できることが増えていくごとに、この思いは強くなっていった。
七さんは蘭方医の祐庵先生に師事して、朝から夕方まで家を空けていた。その間、わたしの面倒を見てくれるのは長屋に住む女性たちだった。今までは七さんに頼りきりだったわたしに、家事の仕方を優しく教えてくれた。
夕げの支度を手伝ってもらいながら七さんの帰りを待つ。その時間が好きだった。
大人の手を借りたとはいえ、わたしが初めて作った夕げを見て七さんは驚き、うんと喜んでくれた。
今日も喜んでくれるかなと思いながら作るのは、とても楽しかった。
それに、七さんはたくさん褒めてくれるから、家事には力が入った。
「七さん、はやく帰って来ないかなぁ」
「お春はほんなこて七さんが好きね」
なにかにつけて、みんなこう言ってわたしをからかって笑う。
だけど、わたしはいつも答えに困っていた。
「うん」とうなずいてしまえば、「健気で可愛い養い子」だと認められてしまう。自分でもその立場を認めてしまうような気がして、それがすごく嫌だった。
このときには、七さんをおとうの代わりにはしなくなっていた。
七さんの家族としてそばには居たいけれど、娘にはなりたくない。自分でもそう思ってしまう感情を理解できず持て余していたけれど、できることが増えていくごとに、この思いは強くなっていった。