春送り〜藩医の養父と娘の禁断愛〜
「お春ちゃん」
「ひゃっ!!」
突然、後ろから男の人に声をかけられて驚いた。振り返れば、長屋に住む大工のおじさんだった。
「なん立っとーと? 七さんはいるかい」
「う、うん」
「よかった。邪魔するばい」
わたしがよけると、大工のおじさんは遠慮なく戸を開けて七さんに声をかけた。
おじさんが大きな声で話すから、用事が耳に入ってしまう。
どうやら、屋根の修理をしていた仲間が落ちて怪我をしたようで、七さんに診てほしいとのことだった。
七さんはこうやってなにかあれば頼りにされていた。
わたしが戸口から顔を覗かせると、目の合った七さんがすこし気まずそうに目をそらした。
「お春、朝げを食べたら横になって安静にしてろ」
「一緒に食べ」
「俺のことはいいから、先に食べてな」
七さんは言って薬箱を手に取り草履に足を通した。
状況が状況なだけに、横を通り過ぎていく七さんに言いすがることもできない。
「うん、いってらっしゃい……」
大工のおじさんのあとに続いて駆け出す七さんの後ろ姿を見送ることしかできなかった。
「着物は干してきたね」
「はい」
「血は乾いたら取れんけん、汚れたらすぐに洗わんねえ」
「はい」
わたしは桶を置いて、へっついの前にしゃがみ、七さんが消した火をおこしながら、ヨシばぁに「月のもの」のことを詳しく教えてもらった。
ヨシばぁは話の最後まで、七さんの嫁探しについては触れなかった。
「ひゃっ!!」
突然、後ろから男の人に声をかけられて驚いた。振り返れば、長屋に住む大工のおじさんだった。
「なん立っとーと? 七さんはいるかい」
「う、うん」
「よかった。邪魔するばい」
わたしがよけると、大工のおじさんは遠慮なく戸を開けて七さんに声をかけた。
おじさんが大きな声で話すから、用事が耳に入ってしまう。
どうやら、屋根の修理をしていた仲間が落ちて怪我をしたようで、七さんに診てほしいとのことだった。
七さんはこうやってなにかあれば頼りにされていた。
わたしが戸口から顔を覗かせると、目の合った七さんがすこし気まずそうに目をそらした。
「お春、朝げを食べたら横になって安静にしてろ」
「一緒に食べ」
「俺のことはいいから、先に食べてな」
七さんは言って薬箱を手に取り草履に足を通した。
状況が状況なだけに、横を通り過ぎていく七さんに言いすがることもできない。
「うん、いってらっしゃい……」
大工のおじさんのあとに続いて駆け出す七さんの後ろ姿を見送ることしかできなかった。
「着物は干してきたね」
「はい」
「血は乾いたら取れんけん、汚れたらすぐに洗わんねえ」
「はい」
わたしは桶を置いて、へっついの前にしゃがみ、七さんが消した火をおこしながら、ヨシばぁに「月のもの」のことを詳しく教えてもらった。
ヨシばぁは話の最後まで、七さんの嫁探しについては触れなかった。