春送り〜藩医の養父と娘の禁断愛〜
 周期の安定しない月のもので着物を汚してしまい、洗って帰ってきたときのことだった。
 ただいま、と戸を開けたら、もっとも見たくなかった光景が目に飛び込んできた。

 居間で背を向けて座るお千さんと、そのうしろに両膝をついて座る七さんの姿があった。
 お千さんの着物の襟をずらす七さんの手。ゆっくりと露出されていく白いうなじと肩、お千さんの「ん」と漏らした声に、すべてを悟った。

「うっ」

 血の気が引いて目の前が暗くなっていく。

「気持ち悪い」

 それは腹の底から無意識にこぼれた。
 込み上げてきたものを家の外に吐き出して、よろよろと戸口に手をついた。

「お春っ」

 わたしに気づいた七さんが慌てて走ってくる。

「近寄らないで!!」
「違うっ、これは診察をしていただけだ!」
「もういい! もうなにもかもっ、もうなにもかもっ!!」
「お春っ」

 愛してやまない手を跳ね返したのは、これが初めてだった。
 涙が虚空に散って、わたしの大事にしていた想いも散った。
 ずっと壊さないよう大事にしてきた。
 胸のうちに秘めていたけれど、もういい。

「七さん……わたしじゃいけない?」
「な、なんのことだ」
「わたしが七さんの嫁さんじゃ、いけないの?」

 七さんの愕然とした顔や力なく垂れた両腕を見て……見ていられなくなって、わたしは走り出した。

 もう終わりだ。

 わたしはもう、七さんの娘にも、女にもなれなくなった。
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