春送り〜藩医の養父と娘の禁断愛〜
「して、娘も連れていくのだろう?」

 俺は笑みを固めた。
 娘ーーお春のことだ。

「数えるほどしか会ってないが、ずいぶんと美しく成長したもんだ。噂に聞く長屋のかぐやとは言い得て妙な」
「あの子はかぐやでもなんでもありません」
「そうさの。かぐやならば、いつか月に帰ってしまう。人の子でよかったなぁ。娶ろうと思えば誰でも娶れる。誰でも、だ」

 祐庵先生は含み笑いをこぼした。
 注がれる視線に、胸のあたりがゾワゾワして落ち着かない。

 お春は俺の娘になることを拒んだ。だからもう、娘とは思うまいと思った。
 とはいえ、長年育ててきた子でもある。
 どうして簡単に"女"として見れようか。

 いっそ本物のかぐやだったなら、離れていくお春を思い、泣いて惜しむだけで済んだのに。
 
「陽玄に文を出す。できるだけ早く荷物をまとめ、出立の用意をせよ」
「はい」

 新天地に向かうたび、俺とお春は親子としてその土地に馴染んできた。だが、これからはどうすればーー俺たちの関係は、なんだろうか。
 
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