春送り〜藩医の養父と娘の禁断愛〜
 その日の夜、俺はお春に高森藩に行くことになったことを伝えると、お春は「そうですか」と沈んだ声で答えた。
 茶屋の件で一方的に責めたことをまだ怒っているのか、それとも悲しんでいるのか。

「お前も一緒に来るだろう?」

 くしで髪をすくお春の後ろ姿に問いかける。

「いない方が、身軽なのじゃなくて?」
「そう冷たい言い方するな。さっきのこと怒っているのか? 言い過ぎた。悪かったよ」
「昔の七さんは、わたしが間違ったことをしてもまずは理由を聞いてくれました。最近の七さんは頭ごなしに怒るばかり」
「あれはお前が心配だったからで」
「それは親として?」

 お春が頭を巡らせてこちらを向いた瞬間、髪がさらりと流れた。頼りない光に照らされた姿に妖艶な輪郭が浮かび上がる。
 俺はこくりと喉を鳴らし、肺から込み上げてきた熱い息を吐き出した。
 お春が出会い茶屋の女だったら迷わず抱いただろうかーー想像しかけて、自分に幻滅をした。

「嫁と言われて嬉しかった。そうならいいのに、とどんなに思ったことか」
「冗談じゃなきゃ、あんなこと言えねぇよ」

 お春は手の甲で髪を払って、諦めたようにため息をついた。

「今度もまた娘ですか」

 越州に着いたあとのことを言っているのだろう。

「それ以外ないだろう」

 俺もまたため息をつき、うなずくほかなかった。
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