春送り〜藩医の養父と娘の禁断愛〜
終話 春送り
わたしは七さんに連れられてナガサキを離れ、高森へと移住した。
着いた頃には秋だった。
藩士たちの往診が主な役目とされた七さんは、武家屋敷の入り口となるところに居を与えられた。
長屋ではなく小さな家を与えられ、ふたりして目を丸めたものだった。
「は、ははっ……まだなにもしてないのに出世した気分だ」
「 祐庵先生のお墨付きですもの、それだけ期待されているんですよ」
「そうなのかねぇ」
「ほうけてないで、しっかりなさって」
わたしと七さんの関係はというと、なんだか昔よりずっと怪しいものになっていた。
「そちらさんは娘さんで?」と尋ねられれば、七さんは歯切れ悪く「わけあって育てている親戚の子です」と答えた。
人々はあたたかく迎え入れてくれた反面、わたしたちの関係を怪しんだ。
それも仕方がない。
わたしは家で妻のように働き、往診に行く七さんの荷物持ちとして従って歩いていたのだから。
七さんとしては、わたしがお侍様の目に留まればと思ってのことなのだろうけれど、
わたしはお侍様に話しかけられても言葉数少なく答えるばかりだった。
食うに困らない家に嫁ぐ。
それもきっと幸せな道なのだろう。
高森で過ごすうちに、そんなことを思うようになっていた。
着いた頃には秋だった。
藩士たちの往診が主な役目とされた七さんは、武家屋敷の入り口となるところに居を与えられた。
長屋ではなく小さな家を与えられ、ふたりして目を丸めたものだった。
「は、ははっ……まだなにもしてないのに出世した気分だ」
「 祐庵先生のお墨付きですもの、それだけ期待されているんですよ」
「そうなのかねぇ」
「ほうけてないで、しっかりなさって」
わたしと七さんの関係はというと、なんだか昔よりずっと怪しいものになっていた。
「そちらさんは娘さんで?」と尋ねられれば、七さんは歯切れ悪く「わけあって育てている親戚の子です」と答えた。
人々はあたたかく迎え入れてくれた反面、わたしたちの関係を怪しんだ。
それも仕方がない。
わたしは家で妻のように働き、往診に行く七さんの荷物持ちとして従って歩いていたのだから。
七さんとしては、わたしがお侍様の目に留まればと思ってのことなのだろうけれど、
わたしはお侍様に話しかけられても言葉数少なく答えるばかりだった。
食うに困らない家に嫁ぐ。
それもきっと幸せな道なのだろう。
高森で過ごすうちに、そんなことを思うようになっていた。