春送り〜藩医の養父と娘の禁断愛〜
 約束通り庭で七輪を使って魚を焼いていると、七さんは縁側に座って酒を飲み始めた。
 酌をしろと言わないところが、七さんらしい。それでも気になってしまい、隣に座ってお酌をすると、七さんは目を細めて喜んだ。

 魚の焼き加減の様子を見たり、七さんのお酌をしたりと動いていると、七さんはくつくつと喉を鳴らして笑った。

「酌はもういい」

 やっぱり、忙しないわよね。

「慣れた人なら、もっと上手くやるのかしら」
「さぁな。俺は知らない。だが、比べるもんでもないだろう。ただ、なんだ。りすのように動き回るから笑えてきただけだ」
「なによそれ。娘の次はりすですか」

 七輪のそばでしゃがんでいたわたしは、呆れながら立ち上がった。

「いいじゃねぇか、りす。可愛いだろう」
「いったいいつになったら、大人の女の扱いをしてくださるのかしら」

 七さんはごまかすように口のなかで笑って、酒をあおった。

「はぁー、しばらく酒を体に入れてなかったせいか、酔っ払っちまったなぁ」

 わざとらしい話の逸らしかた。
 いつまでも"今の"わたしに目を向けてくれない七さんに腹が立った。

 どんなに男好きのする仕草をしても、どんなに歳を重ねても、この人がわたしを女として見てくれない限りなんの意味もない。
 
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