春送り〜藩医の養父と娘の禁断愛〜
 わたしは七さんの前に立って、まっすぐに見つめた。

「酔いを覚ますいい方法がありますよ」
「え?」

 無防備な、けれどがっしりとした両肩に手をつく。七さんに止められる前にと、さっと顔を近づけ、七さんの唇にわたしの唇を重ねた。

 口吸いの仕方なんて、茶屋の姐さんに聞いただけでよく知らない。
 唇を重ねて、ほんのすこし下唇を動かして、吸うようにしながら口を離す。
 教えられたままにやって顔を離し、七さんの表情をうかがう。

 七さんは驚いたまま表情を凍り付かせていた。なにが起きたのか理解できないみたいに目を泳がせ、ぎこちない動きでわたしを見る。

「な、にを……なんでだ……」

 七さんの体からどっと悲しみが噴き出した。
 わたしは、こうなるとわかってやった。
 だから、揺るがなかった。

「お慕いしているからです」

 言ったら、蓋が開いたみたいに感情がどっと押し寄せ、目の縁に涙が溜まった。

「出会ったときから、ずっと、ずっと」
「間違ってる。こんなことは間違ってるんだ、お春。俺とお前とじゃうんと歳が離れてる。親子のように過ごしてきた俺たちが、今さら夫婦になれるかっ」

 力のない叫びとともに、肩に置いていた手を掴まれる。

「お前には幸せになってほしい。だけどそれは俺とじゃねぇ。俺とじゃいけねぇんだ」
「なぜいけないんですか」
「お春」
「こんなに愛してしまったのに、今さら……どの男と一緒になったって幸せになんか」

 なれるはずがない。
 涙でかすれた声に、七さんの表情が曇る。
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