春送り〜藩医の養父と娘の禁断愛〜
高森に来て二度目の春が来た。今年の春はやけに冷える日が多く、体調を崩した藩士に呼ばれる日々が続いていた。
わたしは変わらず、七さんの付き人のように往診に付き添っていた。
珍しく暖かい風の吹いたある日、 鹿山満直様という藩士に呼ばれた。
鹿山様は三十のなか頃のお歳だと聞いている。ニ男一女の子を待ち、三年前に奥方様を亡くされた。末娘を産んでまもなくのことだったと。
藩士のなかでも重役を仰せつかっているという鹿山様だったけれど、庶民であるわたしたちにも優しく、診療が終わったあとは必ず茶と茶菓子をご用意してくださる奇特なお方だった。
その日も診療前にご挨拶をし、穏やかな笑みでわたしに言葉をかけてくださった。
「ここのところ体調を崩す者が多いが、元気そうでなによりだ」
「恐れ入ります」
手をつき深々と頭を下げると、鹿山様は続けた。
「さて、お春殿」
「はい……?」
「先生に診てもらっているときは外の廊下で待ってもらっていたが、今日は門口で待ってもらえないだろうか。人払いをしたのち、先生と話したいことがある」
なんの話だろう。
藩に関わることかしら。
いずれにせよ、承知する以外にわたしが選べるものはない。
「はい。仰せのままにいたします」
「いつもの茶菓子は土産に持たせよう。今日は饅頭だ。帰って蒸してから食べなさい。体が温まる」
「お気遣いありがたく存じます」
わたしは前に正座している七さんの傍に薬箱をそっと差し出して退室した。
わたしは変わらず、七さんの付き人のように往診に付き添っていた。
珍しく暖かい風の吹いたある日、 鹿山満直様という藩士に呼ばれた。
鹿山様は三十のなか頃のお歳だと聞いている。ニ男一女の子を待ち、三年前に奥方様を亡くされた。末娘を産んでまもなくのことだったと。
藩士のなかでも重役を仰せつかっているという鹿山様だったけれど、庶民であるわたしたちにも優しく、診療が終わったあとは必ず茶と茶菓子をご用意してくださる奇特なお方だった。
その日も診療前にご挨拶をし、穏やかな笑みでわたしに言葉をかけてくださった。
「ここのところ体調を崩す者が多いが、元気そうでなによりだ」
「恐れ入ります」
手をつき深々と頭を下げると、鹿山様は続けた。
「さて、お春殿」
「はい……?」
「先生に診てもらっているときは外の廊下で待ってもらっていたが、今日は門口で待ってもらえないだろうか。人払いをしたのち、先生と話したいことがある」
なんの話だろう。
藩に関わることかしら。
いずれにせよ、承知する以外にわたしが選べるものはない。
「はい。仰せのままにいたします」
「いつもの茶菓子は土産に持たせよう。今日は饅頭だ。帰って蒸してから食べなさい。体が温まる」
「お気遣いありがたく存じます」
わたしは前に正座している七さんの傍に薬箱をそっと差し出して退室した。