春送り〜藩医の養父と娘の禁断愛〜
 わたしに布団を譲ってくれた七さんは、冬物の衣を身体に巻いて隣で眠った。
 
 もう寝ないといけないのに、なかなか寝付けない。

 その気配を感じたのか、七さんが寝返りをうって横向きになると、わたしのお腹の上を布団越しにポンポンと叩き始めた。

「俺は東のほうの国の出でな」

 七さんが静かに語る。

「いろんな国を修行かねて渡り歩きながら、ナガサキを目指してるんだ」
「ナガサキにはなにがあるの?」

 声をひそめて問えば、優しい声が返ってくる。

「たくさんの医学の知識だ。俺はナガサキで医学を学んで、いつか町で治療院を開きたいんだ」
「ふぅん」
「あと、うまい食い物もあるって」
「七さんの作るご飯より美味しい?」

 七さんは喉の奥で笑って、どうかなと言葉をこぼした。
 七さんの声が心地よくて、眠気がやってくる。会ったばかりなのに、この人のそばにいると安心する。
 あいずちをうつこともできなくなってくると、七さんの声も止んだ。


 翌日、七さんの案内で村に帰ることができた。見慣れた道を七さんの手を引いて走り、実家の戸を叩いた。

「おとう! おかあ!」

 両親が揃って飛び出して来て、信じられないと言わんばかりに目を丸めていた。そのあとに、兄ふたりと末の弟が出てくる。

「お春……」
「おとうっ、おとう!」

 泣いて抱きつけば、おとうの手がわたしの頭を撫でた。ずっと探し求めていた手に、七さんのそばで感じたときと同じ安らぎを覚えた。
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