聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「私一人では無理ですね。エルンレッド殿下くらいの魔力の人と、あともう一人、おそらく合計三人くらいでようやく一人を異世界転移させられるくらいです」
 そういえば前にも同じことを聞いて無理だと言われた気がする、と三千花は思い出す。

「この世界の中での転移ならわりと簡単かな。私なら城内の移動くらいの距離が転移できる範囲ですよ。禁止されているからやりませんけどね」
「そうなんだ?」

「誰でもできるわけではありません。貴族の魔力の強い者でも五メートル程度の転移ができれば御の字程度です。それに、知っている場所にしか転移できません」
 ユレンディールは優しい笑みとともに補足した。

 五メートルの転移に意味があるのか、と三千花は思ってしまう。
「たった五メートルの転移でも、使い方によっては危険なのですよ。ですからやたらと転移の魔法を使うのは法律で禁止されています。それ以外にも魔法についての法律はたくさんありますよ」

 三千花の心を読んだかのように、リグロットが付け加えた。
 便利なだけに法律で厳しく制限されているのだな、と三千花はホッとした。

 そういえばアルウィードはいつもドアから入ってきていた。ノックするときとしないときがある上に、返事を待たずに開けるときもあるのだが。

「良かったわ。着替えの最中に男性に乱入されたら嫌だもの」
 晴湖が安堵(あんど)の様子で言う。

「その発想はありませんでした」
 面白そうに、ユレンディールが微笑した。

「やだ、やらないでくださいね」
「あなたの部屋になら忍んで行きたいと思ってしまいますが、我慢いたしましょう」
 晴湖は笑みで応える。

 お、大人の余裕……。
 三千花は晴湖が輝いて見えた。


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