聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「君のために転移魔法で追いかけてきたんだ。ユレンディールと一緒になんてしておけない」
「君も失礼だよ、アル」
 ユレンディールは笑顔で文句を言った。

「何もされてないか、三千花。あいつは女に手が早くて有名なんだ」


「失礼だなあ。いつも私は何もしてないよ。女性が勝手に私に()れるだけで」
 笑顔のまま言うユレンディールに、三千花はドン引きした。

「わかるわあ、勝手に惚れられると困るわよねえ」
 晴湖が同調する。
「わかっていただけてうれしいよ」
 ユレンディールはにっこりと応じる。

 晴湖さんの聞き上手のキャパがハンパない、と三千花は唖然とした。

「いつの間に来たの?」
「今だ」

「転移魔法を使われたのですね。こちらにいらしても大丈夫なのですか?」
 リグロットが心配そうにたずねる。
「問題ない」

「やたらめったら使ったらダメなんじゃなかったっけ」
「今は必要なときだからいいんだ」

 むちゃくちゃじゃん、と思いながら三千花はアルウィードの顔を見た。そういえば昨日倒れたと聞いたばかりだった。
 顔色は良いようには見えない。そもそも博物館がそれほど明るくないから、きちんと判断はできない。
「なんだ?」

 視線に気づいたアルウィードが三千花を見る。
「本当に大丈夫かな、って」

「心配してくれるのか」
 アルウィードが三千花のあごに手を添える。
「ひっ人がいるからっ」
 三千花は意図を察して制止する。

「人がいなければいいんだな?」
「ち、違う!」

「あらー、愛されてるわねー」
 晴湖がうふふと笑いながらつぶやく。

「違う、違うからー!」
 三千花は慌ててアルウィードから離れようとする。が、がっちり腰を掴まれていて離れられない。

「こうしていると回復が早い。離れるな」
「嘘だ……」
 とってつけたような捏造(ねつぞう)に三千花は呆れ果てた。

「三千花様が嫌がっておられますよ」
「気のせいだ」
 アルウィードはユレンディールの指摘を切って捨てる。

「三千花様が結婚の相手として私を指名してくだされば、すぐにでもお救いして差し上げますのに」
 それはそれで嫌だ、と三千花はげんなりした。

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