聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
深夜、三千花はエミュリーが自室に戻ったあと、あちらの世界の服に着替えた。
エミュリーはちゃんと処分せずにとっておいてくれていた。バッグとその中身もそろっていた。
ペンをとり、手紙を書いた。あちらの世界に戻るだけだから心配しないで、と書いた。もう私のことには構わないでください、とも。
覚えたてのこちらの世界の文字だから、子供が書いた字のようになってしまった。
晴湖とシェリナを置いていく後ろめたさがあった。もしかしてアルウィードが追ってくるかも、という心配もあるが、とにかくこのチャンスを逃したくなかった。
一二時少し前に自室の扉をそっと開けると、見張りの兵士が崩れるようにして眠り込んでいた。
いつかは一人だった見張りが、三千花の部屋の前に二人、エミュリーの部屋の前に一人いた。その三人共が眠り込んでいる。
いつの間に増やされたのか。抜け出したあとからか、お茶会でリグロットにあやしまれたのか。どちらにしろ、今は眠ってくれている。
ホッとして、もらった手紙の地図を頼りに歩いていく。
夜中のためか、人に会うことなく神殿にたどり着いた。
いつぞやと同じ満点の星空だった。その夜空を背に、荘厳な神殿がそびえている。
大きく重い扉を、三千花はゆっくりと開けた。
中は薄暗く、入口そばにはファリエルタが待ち構えていた。手に持つランタンの中で、石ころが青白い光を放っている。
「お待ちしておりましたわ」
「本当に、帰れるの?」
異世界転移は簡単ではないと、さんざんリグロットに言われてきた。