聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 アルウィードにさらわれたあのとき、襲撃者は三人だった。まさか彼が殺したのか。彼はすぐ三千花を連れて異世界に行ったのに? あとでまたこちらに来たのだろうか? わざわざ殺すためだけに?

 アルウィードの笑顔が頭に浮かぶ。とうてい、人を殺すようには思えないあの笑顔。

「大丈夫?」
 母が心配そうに三千花を見る。
 何も証拠はない。三千花は「大丈夫」としか答えられなかった。





 家にきた刑事は一人が氷川蓮月(ひかわはづき)、もう一人は雨海優梨(あまみゆり)と名乗った。蓮月は短髪にキリッとした顔立ちをしており、優梨は優しそうな美人だった。

 刑事は玄関先で立ったまま三千花にいなくなっている間のことを聞いた。
 事情を聞かれた三千花は、「記憶がない」で押し通した。

「デパートで騒ぎに遭遇(そうぐう)したのは覚えてるんですけど」
 三千花はその夜からの記憶がないフリをした。

「何か強いショックを受けたのかしらね」
 優梨は同情するようにそう言った。
 嘘をついている後ろめたさで、三千花はうつむく。

「病院へ行かないと」
 同席した母がうろたえたように言った。
「その方がいいですね」
 検査のときに異世界の話をしたらどうなるんだろう。やはり異常者扱いされて終わるのか。

「あら、そんな指輪持ってた?」
 母が三千花の左手を見て言う。

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