聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
* * *
リーンウィックは少なからずドキドキしていた。
なんであの女はあんなことしたんだ。
猫になっているときに三千花に抱きしめられてもドキドキなんてしなかった。
子供の頃に母に抱きしめられたときは、その温かさが嬉しかった。
そのどちらとも、晴湖は違った。
じんわりと、彼を包むような温かさだった。
それが彼の心を波立たせた。
なんだよ、あいつ。
なんで僕はドキドキしてるんだよ。
リーンウィックは晴湖のにこやかな笑顔を思い出す。
なんで笑ってるんだよ。
リーンウィックはイラ立ちとともに心の中で毒づいた。
* * *
蓮月は三人が殺害された事件の捜査を続けていた。
近所への聞き込みの際、防犯カメラの有無とともに車載カメラの有無も聞いてまわった。
とある一家の車載カメラにそれは映っていた。
どん、という衝撃音とともにカメラの映像がスタートした。
猫がボンネットに乗った音だったようで、カメラの端に黒猫が映っていた。
中年の男性が通りかかった女性に後ろから抱きつく様子が映った。女性は三千花に似ていた。
二人はいったん画面の外に出た。もめるような音声のあと、男性が一人で逃げ出す様子が映った。
次の瞬間、画面が青白い光で満たされた。
光がおさまると、猫が横切って画像が途切れた。
「この男が何か知ってるのかも……」
「最近このあたりで痴漢が多くて、被害届も出ているわ。すぐに探しにいきましょう」
被害女性に確認してもらったところ、この男が痴漢であると肯定した。
男の住所をすぐに探し出し、蓮月たちは男を任意同行した。
男は犯行を否認したが、被害者の衣服についていたDNAと彼のDNAが一致したため、犯人と認定され、逮捕された。