聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 深夜。

 アルウィードは三千花の部屋に忍んで訪れた。
 直接転移したので、警備兵は彼に気づいてはいない。

 エミュリーは自室に戻っており、三千花は一人、寝室で眠っている。
 その寝顔を見て、アルウィードはため息をついた。

 やつれたな。
 彼はそっと三千花の頬に触れる。
 彼女はみじろぎもせず寝息をたてている。

 晴湖のお陰で少しずつ元気を取り戻しているとリグロットから聞いていたが、心配でたまらなかった。

 アルウィードは父である国王に、三千花に会うことを禁じられていた。
 事件が解決していない以上、王族が事件の当事者に肩入れしてはならないという配慮だった。

 会うのを禁止されても、アルウィードの彼女への思いが(くも)ることはない。
 彼は父の言葉を受け入れた。

 会えない時間を犯人の探索に使った。魔力も惜しみなく使って捜査に協力した。ときおり、異世界へも犯人の捜索に行った。

 だが、手がかりになるようなものは少なかった。三千花に手紙入りのパンを渡した使用人すら見つからなかった。もう消されたあとなのかもしれない。

 ほかの手がかりも、途中で誰かが消したかのように、プツリと切れてなくなってしまう。

 三千花を頭から追い出し、捜査に集中しようとした。
 だがやはり、会えない時間は彼をじりじりと焦がしていく。

 三千花はかなり憔悴(しょうすい)していると聞いていた。そんなときにそばにいられないなんて。
 耐えきれず、彼は会いに来てしまった。

 俺が苦しめているのか?

 それならば三千花の敵は彼自身ということになる。とても耐え難いことであった。

 彼女を想うならば引くべきか。

 だが、彼にはとうてい無理だった。それができるなら最初から彼女を連れてきてはいない。

「……」
 彼は三千花の耳元で一言を(ささや)き、彼女の唇に自らのそれを軽く重ねた。

 三千花はふいに寝返りをうち、アルウィードに背を向ける。
 彼はうつむき、首を振った。瞳には暗い悲しみが宿っていた。

 いずれにしろ、犯人を捕まえなくてはならない。
 アルウィードは後ろ髪をひかれる思いで三千花の部屋から転移して自室に戻った。
 三千花は気づくことなく眠っていた。


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