聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
* * *
朝。
いつもより少し早く目が覚めた三千花は、ぼうっとしていた。
もうすぐエミュリーが起こしに来る。それまで横になってよう。
三千花はふかふかの枕にもう一度頭をうずめて、夢のことを思い出した。
アルウィードが部屋に来た夢だった。
夢の中でもキスされた、と思い出し、熱くなった顔を両手で覆う。
違う、願望じゃない、記憶が夢に出ただけだから。
誰にも何も言われていないのに、一生懸命に心の中で言い訳する。
夢の中のアルウィードは「ある言葉」を囁く場面まであった。
あ、と気がついて三千花は体を起こす。
「そっか……」
自分の中でのアルウィードへの違和感の正体に気がついた。
彼は何度も結婚を口にしたが、一度もその言葉を伝えたことはなかった。
「だからなんか不信感があったのかな……」
夢の中で囁かれた、その言葉。
「待って、私、どうして」
まさか自分の無意識の願望が出たのだろうか。
違う、そんなことはないはず。
その言葉さえあれば、彼を受け入れたのだろうか。
三千花はベッドの上で悶えた。バンバンとベッドを叩く。
「聖母様、何かありましたか!?」
物音に驚いたエミュリーがノックもなしに入ってきた。
バタバタしていた三千花は彼女と目が合い、停止した。
次の瞬間、ガバっと布団を頭からかぶる。
見られた。恥ずかしい!
今度はバタバタすることも、出来ず、ひたすら布団にもぐっていた。
* * *
エミュリーはリグロットに手紙で報告した。
相変わらず様子がおかしいので、もう少しそっとしておく時間が必要です。アルウィード様にはまだお会いにならないほうがいいと思います。
そのようなことを書いて、連絡の兵士に渡した。
早くお元気になって、前のように殿下との時間を過ごしてくださいませ。
エミュリーは心の底からそう祈っていた。