聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜


 * * *


 朝。
 いつもより少し早く目が覚めた三千花は、ぼうっとしていた。
 もうすぐエミュリーが起こしに来る。それまで横になってよう。

 三千花はふかふかの枕にもう一度頭をうずめて、夢のことを思い出した。
 アルウィードが部屋に来た夢だった。

 夢の中でもキスされた、と思い出し、熱くなった顔を両手で覆う。
 違う、願望じゃない、記憶が夢に出ただけだから。
 誰にも何も言われていないのに、一生懸命に心の中で言い訳する。

 夢の中のアルウィードは「ある言葉」を(ささや)く場面まであった。

 あ、と気がついて三千花は体を起こす。

「そっか……」
 自分の中でのアルウィードへの違和感の正体に気がついた。

 彼は何度も結婚を口にしたが、一度もその言葉を伝えたことはなかった。

「だからなんか不信感があったのかな……」
 夢の中で囁かれた、その言葉。

「待って、私、どうして」
 まさか自分の無意識の願望が出たのだろうか。
 違う、そんなことはないはず。

 その言葉さえあれば、彼を受け入れたのだろうか。

 三千花はベッドの上で(もだ)えた。バンバンとベッドを叩く。

「聖母様、何かありましたか!?」
 物音に驚いたエミュリーがノックもなしに入ってきた。

 バタバタしていた三千花は彼女と目が合い、停止した。
 次の瞬間、ガバっと布団を頭からかぶる。

 見られた。恥ずかしい!
 今度はバタバタすることも、出来ず、ひたすら布団にもぐっていた。


 * * *


 エミュリーはリグロットに手紙で報告した。
 相変わらず様子がおかしいので、もう少しそっとしておく時間が必要です。アルウィード様にはまだお会いにならないほうがいいと思います。

 そのようなことを書いて、連絡の兵士に渡した。
 早くお元気になって、前のように殿下との時間を過ごしてくださいませ。
 エミュリーは心の底からそう祈っていた。

< 178 / 317 >

この作品をシェア

pagetop