聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
♪ハッピータウン、ハッピータウン、ハッピータウンだよ〜。

 間抜けな歌が脳内に響く。
 鈴里三千花(すずさと みちか)の勤める総合スーパー『ハピタ』のテーマソングだ。

 せっかくショッピングモールに来ているのに、どうして自分の勤め先の歌が頭に回るのか。
 三千花は少しうんざりする。

 しかも、ずっと以前に似たような歌を別のお店で聞いたような気がする。
 パクリか。
 パクリなのか。

 すごく劣化したパクリだ、と三千花は思う。なんなら元の歌は好きだ。
 だが自分の勤める店の歌ときたら。

 彼女は脳内の歌を振り払うように、ショップに入る。
 今日は休みなんだから仕事は忘れていたい。

 ショッピングモールの喧騒(けんそう)に加え、流行りの歌がかかる店内は更ににぎやかだ。

 あ、これかわいい。
 目についた服を鏡に合わせてみる。
 うん、いい。
 そのまま店員に声をかけて試着室に入る。

 そろそろご飯の時間かあ。晩ごはん何食べようかな。
 考えながら、着替えるためにカットソーを脱いだ。その動きにつれて、小さな石のついたペンダントが揺れた。

 鏡に写った自分が否応なく目に入る。
 良く言って普通オブ普通、と自分で思う。平凡極まりない。顔には特徴がなく、地味。化粧映えもしない。

 髪は仕事に支障がないように染めていない。顔に髪がかかるのが嫌で、肩まで伸ばして後ろで結んでいる。それがまた地味さに拍車をかけている。

 一つ結びでもかわいい人もいるのに、どうしてこんなに違うんだろう。体の締りもない。

 やせなきゃなあ。
 三千花は悲しくなる。

 気づけば25歳、いろいろと考えなければいけない時期かもしれない。
 と思ったそのとき。

 きゃああ、と誰かの悲鳴が響いた。


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