聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「売り物にならんどころか売り物に傷を作るとは」
「私は聖母よ! なんでこんなこと!」
 シェリナが叫ぶ。
「そいつはすげえ」
 男たちが笑う。

「俺たちは2人とも殺せと言われてるんだ、悪かったな、嬢ちゃん」
 低い声の男が剣を抜いた。切っ先はシェリナを向いている。
「何よそれ、話が違うわ!」
 彼は気負いもなくシェリナとの距離を詰める。

「やめて!」
 三千花が叫ぶ。

「なんなのよ!」
 壁に追い詰められたシェリナが叫ぶ。

 彼はそのままシェリナの胸に剣を突き刺した。
 シェリナは大きく口をあけたが、その口から出たのは声ではなく鮮血。

 シェリナは大きく見開いた目で三千花を見て、そのまま倒れた。

「いやあああ!」
「黙れ!」
 三千花はナイフ男に背を蹴られた。

 その目の前に、はらりと紙がおちる。
 背中に貼られた魔法陣が、蹴られた衝撃で()がれたのだ。
 気づいた刹那、叫ぶ。

「縄を切って、攻撃して!」
 指輪に意識を向ける。が、こんな状況ではまったく集中できない。

 風がふわっと彼女の髪を撫でた。縄が切れる様子も攻撃の衝撃波が出る様子もなかった。

「ぜんぜんじゃないか」
 再度彼女の背を蹴飛ばし、男は笑う。

「念のために魔法陣はまた貼っておけ」
 血まみれの剣を持った男が命じる。

 魔法陣は再び三千花に念入りに貼られ、改めてさるぐつわをかまされた。
 シェリナさん!
 三千花の声は、叫びにならなかった。

「めんどくさいからさっさと売るか殺すかしたいところだが」
 シェリナを殺した男が三千花に向き直る。
「あんたはまだだ。王子が助けに来るらしいからな」
 血がしたたる剣を見せつけながら、男は言った。

「王子を捕まえたあとは好きにしていい」
 剣を持った男は先に入ってきた男たちに言う。
 男たちは下卑た笑いを浮かべた。

 三千花はもがくが、まったく縄は解けないし、さるぐつわもはずれない。
 男たちは笑いながら部屋から立ち去った。

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