聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
* * *
アルウィードは時間があれば城内警備隊が設置した捜査本部を訪れるようにしていた。
王城の小神殿で起きた殺人事件は、王城の敷地内ということもあり重大な事件として城内警備隊が捜査をしている。
城内警備隊は軍属で、第一から第三までの隊が交代で城を警備している。それぞれの隊に隊長がおり、全体をまとめるのが総隊長だ。
街の警備はまた別の隊が任務に当たる。
何か進展がないかと訪れた本部は、何やらバタバタと人が出入りしていた。
「何かあったのか」
アルウィードは近くに兵士を捕まえて聞いた。
「はい! 聖母候補様の馬車が襲われた件を優先するように指示がありました!」
「なんのことだ?」
「今日の襲撃ですが……」
アルウィードなら当然知っているだろうと思っていた兵士は彼の反応に狼狽した。
「どういうことだ!」
アルウィードは兵士の襟をつかむ。
「殿下、おやめください」
穏やかな声がアルウィードをとがめた。
彼は兵士から手を離し、声の主を射るように見た。
警備隊の総隊長、ダウナルド・ユン・グローングがそこにいた。ピンと伸びた背筋にたくましい体、落ち着いた表情。上品に整えられたひげが彼の威厳を高めていた。
兵士は頼もしい気持ちで上司を見た。
「博物館に行く途中、聖母候補様の乗った馬車が襲われました。警護は全員死亡、リグロット殿は重症、聖母候補様2名は行方不明となっています」
ダウナルドが説明する。
「2名の名は!」
「スズサトミチカ様と、オトメザワシェリナ様です」
アルウィードはすぐさま転移しようとした。
だが、肝心の三千花の居場所はわかっていない、と思いとどまる。
「リグロットは」
「エルンレッド様が治療に当たられ、一命をとりとめました。ですが意識はなく、話ができる状態にはありません」
「なぜリグロットがやられる」
彼は実務も魔法も剣も優秀だ。そう簡単にやられるとは思えない。
「魔法封印の陣が背中に貼られていました」
「そんな隙を見せるとは思えん」
だが今そこを議論していても仕方がない。