聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「襲撃が発生してからどれくらいたった」
「少なくとも3時間は経過しております」
「そんなに」

 アルウィードは違和感があったことを思い出す。
 そのときに事件があったのかもしれない。
 どうしてもっと疑問をもっておかなかったのか。

「くそ!」
 アルウィードは壁を殴りつけた。
 壁にヒビが入り、そばにいた兵士がおののいて後退る。

「落ち着いてください。そのように荒れていらっしゃるから、陛下はお知らせしなかったのです」

 アルウィードはダウナルドを睨みつけた。いろいろ言いたいことはあるが、それどころではない。

「現場は」
 尋ねるアルウィードに、ダウナルドは首をふる。

「お教えできません。転移して探されるおつもりでしょう。殿下は最近、魔法を使いすぎです。今もお顔の色が悪い。捜索は我々に任せておやすみください」

「もういい。剣を貸せ」
 兵士から剣を奪い取るように借りる。

「アルウィード様、おやめください」
 ダウナルドの制止も聞かず、彼は転移魔法で庭へ出た。

 この状況なら転移魔法より飛行魔法だ。
 アルウィードは自身を暮れかかる空に飛ばす。

 流血沙汰ならまだ道に痕跡があるはず。
 上空から探した。
 博物館までの道をたどると、すぐに見つかった。

 現場にはまだ兵士が十人ほど、捜査のためにうろついていた。
 空から降りると、兵士は一瞬警戒したものの、彼の顔を見てすぐに敬礼した。

 アルウィードはかまわず、探索魔法を使う。
 が、何も反応がない。
 またあちらの世界へ行ってしまったのか。
 どうしてこんなに気配がないのか。

 指輪は外れないように魔法がかけてある。指輪の気配がないならこの世界に存在しないか命を落としているか……。

 いや、そんなはずはない。命が欲しいなら襲撃のときに殺している。現状、行方不明だ。誘拐されたのだろう。もしそうなら、別の目的がある。

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