聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜


 * * *


 暗くなった部屋には、倒れた三千花とシェリナが残された。

 シェリナはピクリとも動かなかった。

 お願い、誰か、シェリナさんを。

 三千花はイモムシのように這ってシェリナに近づこうとした。
 少し動くだけでも息が切れる。まったく近づいている気がしない。

 モゾモゾと動いていると、扉の向こうが急に騒がしくなった。何やら争うような声と音がする。

 今度は何?
 三千花は恐ろしい気持ちとともに扉を見る。
 しばらくすると静かになり、足音が近づく。

 バン! と扉が開けられた。

「三千花!」

 現れたアルウィードはすぐに三千花に駆け寄る。すぐにさるぐつわをほどき、背の魔法陣をはがした。

「シェリナさんを!」
 三千花が言うと、アルウィードが右手を掲げた。部屋に青白い光球が現れ、空中にとどまった。壁際に倒れたシェリナがはっきりと見えた。

 アルウィードは大股で彼女に近づき、その出血に険しい表情を浮かべた。
 かがんで首筋に手をあて、脈をとる。そして、見開いた彼女の目を閉じさせた。
 振り返ったアルウィードは、静かに首を振った。

「そんな……」
 アルウィードが三千花の縄をほどくと、彼女はすぐにシェリナに駆け寄った。血にまみれるのも気にせず、そばにひざまづく。
 その手をとると、すでにシェリナは冷たくなっていた。

「そんな……」
「遅くなってすまない」
 アルウィードの謝罪に、三千花は涙を浮かべて彼を見る。

「どうしてもっと早く来てくれなかったの!」
 アルウィードは答えない。

「どうして!」
 三千花はアルウィードに歩み寄り、その胸を叩く。

「どうして!」
 アルウィードは彼女を抱きしめた。

「君は何も背負わなくていい。悪いのは全部俺だ」

 三千花は声を上げて泣いた。

 アルウィードはただただ、彼女を抱きしめていた。


< 205 / 317 >

この作品をシェア

pagetop