聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
* * *
暗くなった部屋には、倒れた三千花とシェリナが残された。
シェリナはピクリとも動かなかった。
お願い、誰か、シェリナさんを。
三千花はイモムシのように這ってシェリナに近づこうとした。
少し動くだけでも息が切れる。まったく近づいている気がしない。
モゾモゾと動いていると、扉の向こうが急に騒がしくなった。何やら争うような声と音がする。
今度は何?
三千花は恐ろしい気持ちとともに扉を見る。
しばらくすると静かになり、足音が近づく。
バン! と扉が開けられた。
「三千花!」
現れたアルウィードはすぐに三千花に駆け寄る。すぐにさるぐつわをほどき、背の魔法陣をはがした。
「シェリナさんを!」
三千花が言うと、アルウィードが右手を掲げた。部屋に青白い光球が現れ、空中にとどまった。壁際に倒れたシェリナがはっきりと見えた。
アルウィードは大股で彼女に近づき、その出血に険しい表情を浮かべた。
かがんで首筋に手をあて、脈をとる。そして、見開いた彼女の目を閉じさせた。
振り返ったアルウィードは、静かに首を振った。
「そんな……」
アルウィードが三千花の縄をほどくと、彼女はすぐにシェリナに駆け寄った。血にまみれるのも気にせず、そばにひざまづく。
その手をとると、すでにシェリナは冷たくなっていた。
「そんな……」
「遅くなってすまない」
アルウィードの謝罪に、三千花は涙を浮かべて彼を見る。
「どうしてもっと早く来てくれなかったの!」
アルウィードは答えない。
「どうして!」
三千花はアルウィードに歩み寄り、その胸を叩く。
「どうして!」
アルウィードは彼女を抱きしめた。
「君は何も背負わなくていい。悪いのは全部俺だ」
三千花は声を上げて泣いた。
アルウィードはただただ、彼女を抱きしめていた。