聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜




 
 ひとしきり泣いたあと、三千花は少し冷静さを取り戻した。

「ごめん、八つ当たりした」
「……遅れたのはその通りだ」
 アルウィードの腕の中で、三千花は彼の胸に頭をもたせかけた。
 彼の腕に力がこもる。

「襲われたとき、魔法を使ったか?」
「……ごめん、使った」

「なぜ謝る?」
「だって、あなたが倒れちゃう」
 三千花の魔法の源はアルウィードだ。自分のせいで倒れたりなどしたら。

「気にする必要はないんだ」
「……ごめん」

「謝るな」
「だって、私が……」

「謝るな。口を塞ぐぞ」
 言いざま、アルウィードは彼女の口を自らの唇で塞ぐ。
 三千花は目を閉じた。
 抱きしめるアルウィードの手にいっそうの力がこもる。

 アルウィードの深い口づけは、彼女がそこにいる喜びをかみしめるように、丁寧に深く愛を伝える。三千花自身を感じ、確かめるように、優しくゆっくりと。

 三千花の全身に甘い痺れが走る。心拍が早まり、とろけるように力が抜けていく。
 唇が離れた瞬間、彼女は顔を赤くしてうつむいた。

「こんな……」
 少し抗議をこめてつぶやく。

「警告はした」
「言えば何してもいいわけじゃない」
 アルウィードはまた唇を重ねた。短く、触れるだけのキス。

「また塞ぐぞ」
 三千花は黙った。

「それもまたいいけどな」
 アルウィードがからかうように言う。
 三千花は恨みがましく彼を見た。

 直後、アルウィードはふらっと倒れかけた。三千花はとっさに支える。

「大丈夫!?」
「問題ない」
 そう答える顔は青い。

「魔力を使いすぎたの? 早く逃げよう」
「そうだな」
 アルウィードは三千花の手を取る。

 瞬間、眉根を寄せる。

「どうしたの?」
「この手……」
 つないだ手をアルウィードが持ち上げる。

「前にも感じたんだが、もしかして」
 言いかけて、止まる。
 開け放たれた扉の向こうで、物音がした。


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