聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
次の瞬間、三千花の真後ろに男がいた。
剣が振り下ろされる。
アルウィードはとっさに彼女をかばってつきとばし、背を斬られる。
三千花は悲鳴を上げた。
彼は自身の剣を抜き、敵を斬る。男は声もなく倒れた。
その風体はさきほど彼が倒した男たちと違っていた。ただのチンピラではない。
新手か。
アルウィードは出口を見た。
隣の部屋に外から人が入ってくる気配がした。味方ではない、と直感した。
アルウィードは膝をついた。
魔法を使いすぎて体力は限界だ。さらに、背を大きく切られた。激痛でうまく動けない。
そのまま三千花に手を伸ばす。
とっさに三千花も手を伸ばす。
が、その手は彼に届かない。
青白い光が彼女を包む。足が縫い留められたように動かない。
三千花はその光に見覚えがあった。
「愛してる」
アルウィードが言った。
三千花は驚いて彼を見る。
彼は優しく微笑み、伸ばした手を少しひく。魔法の効力に支障がない程度に。三千花の手が届かない程度に。
「アルウィード!」
三千花は叫ぶ。
「初めて名前を呼んでくれたな」
アルウィードはうれしそうに言った。
「早く、手を!」
「君が聖母だというのは嘘だ。俺が君と結婚したかっただけなんだ」
光が完全に三千花を包んだ。
彼女はさらに手を伸ばす。届きそうで届かない。
あと少し、あと少しなのに。
三千花は焦る。光が強くなる。
「三千花、幸せに」
「待って!」
光がさらに強くなり、目がくらんだ。
次の瞬間、三千花はあのときと同じ道路にいた。
「どうして!」
三千花の叫びが住宅街に響く。
薄暗い街灯が彼女を照らす。
空には星が見えなかった。