聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
* * *
光が消えると同時に、三千花の姿はなかった。
アルウィードはほっとして倒れ込む。
敵はあちらにはいけないはずだ。行っても見つけることなどできない。自分が一緒に行かなければ、聖母を厄介だと思っている王家からの追跡もないだろう。
どやどやと人が入ってくる気配がした。
応援の兵士ではなさそうだ。
アルウィードは死を覚悟した。意識が朦朧としてくる。
それでもなんとか魔法の発動を試みる。
が、動かそうとした腕を踏みつけられた。
「殺してはダメよ」
女の声がした。
「どうやら魔力を使い果たして動けないわ。だけど、そうね、この魔法陣を貼っておいて」
女の声のあと、何者かが乱暴に背中を叩く。
「ふふ。今ね、魔法封じの紙を貼りましたの。あとでもっとしっかり封じてさしあげますわ」
仮面の女が視界に入った。茶金の豪華な髪をしていた。
声には聞き覚えがあった。
「ごろつきどもは全員始末しました」
キビキビした動きで、一人の男が報告に来た。
「そう。なら早く撤退しましょう」
女は仮面を外してアルウィードを見た。
アルウィードは薄れていく意識の中でその顔を見た。
この顔は……。この髪は……。
* * *
三千花は焦った。
どうにかならないか、と思わず地面を叩く。が、地面が割れたり異世界への入口が開いたりはしない。
指輪の魔法で!
そう思うが、異世界へ行く魔法なんて知らないし、尽きかけているという彼の魔力をさらに使うのはどうなのか。
どうしたらいいの!
ここには三千花の事情を知る人などいない。
違う。一人いるわ。
三千花はそのまま走り出そうとして、立ち止まる。
血まみれのドレスで街中を走るのか。
一瞬の迷いの後、引き返すように駆け出した。
* 第四章 終 *