聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 三千花は泣きそうになる自分を叱咤(しった)して、自宅へ走った。
 今はまだ泣くときじゃない。

 自宅のインターホンを押すと、すぐに母親がでてきた。
「三千花!」
「ただいま! 急ぐから!」
 驚く母親をおしのけ、二階の自分の部屋へ駆け上る。

 ドレスを急いで脱ぐ。途中、何かがひっかかって動けなくなる。
 急いでるのに!

 力づくで引っ張るが、脱げない。
 追いかけてきた母親がもがく三千花を助けた。

「何があったの」
「ありすぎて説明できない。警察に行くからあとで」

「警察って――。どうしたのそのあざ。赤いのは――血なの?」
 母は(おそ)(おそ)る三千花の脱いだドレスを持ち上げる。

「怪我したの? 救急車を」
「大丈夫。シャワー浴びてくる」

 ドレスを脱いだ三千花はすぐさま着替えをひっつかんで風呂場にとんでいき、軽くシャワーを浴びた。

 迷う時間なんてない。すぐにあちらに戻れるように、救急車などで時間を取られたくない。

 ドタドタとでてきて、いつものバッグをひっつかむ。
「じゃ、行ってくる!」
 玄関を出てカーポートの白い車に乗り込む。
 買ったばかりの中古だ。

「急がば回れ」
 何度も唱えながら、制限速度いっぱいで夜の道を走らせる。

「事故ったら余計に時間取られる」
 ドキドキと早まる鼓動に落ち着けと言い聞かせる。警察署の駐車場に滑り込むと同時に飛び出した。

 署内に駆け込むと、カウンター内の人に話しかける。
「刑事さんを呼んでください」
 その人は(いぶか)しげに三千花を見返す。

「名前はわかりますか?」
「三千花です。鈴里三千花!」
 刑事の名前を聞かれているのに、自分の名前を叫ぶ。

「男の刑事です。うちに来たんですけど」
 そう付け加えた。

「……少々お待ち下さい」
 その人は奥へ行って電話をとる。戻ってきて、三千花にこのまま待つように言った。

< 210 / 317 >

この作品をシェア

pagetop