聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
その屋敷はリンシュター家のタウンハウスだった。領地にあるカントリーハウスが本邸であり、タウンハウスは別邸だ。
ロレッティア・ディアン・リンシュターは現在、結婚の準備のためにそのタウンハウスに住んでいる、とのことだった。
リンシュター家は軍人を多数排出している家系だ。
現在の将軍はリンシュターの当主、ロレッティアの父であるガイジェル・ディアン・リンシュターが務めている。
軍との結びつきを強めるために、第一王子とリンシュター家の娘との婚約がなされたのだ。
そのリンシュター家にむやみに踏み込めば関係を悪化させ、国家の治安の問題になりかねない。
そもそも探索魔法は万能ではない、とダウナルドは三千花に説明した。魔力の消費量のわりに精度が悪い。だから通常はこの魔法は行われない。よほど重大な捜査対象でなければ。よほど重要人物でなければ。
「指輪があってアルウィード様と魔力がつながっている分、精度はあがっています。ですが、そもそもの精度が悪いので、それを証拠とすることはできないのです」
ダウナルドの説明に、ああ、と蓮月は納得する様子を見せた。捜査の中ではあちらでも似たような状況があるのかもしれない。
「その精度の悪い魔法で出た結果を用いて一級貴族の――ましてやレオルーク殿下の婚約者殿の家であり、将軍であるリンシュター家の捜査に行くことなどできません」
だが、三千花は納得ができない。ダウナルドを睨んだ。
「じゃあなんのために私を呼んだの!」
「少しでも手がかりを得るためです」
迷いなくダウナルドは答える。その冷静さが三千花の憤りを強くさせる。
「王が命令すれば捜査できるんじゃないの?」
「権力はそんな便利なものじゃないのですよ」
ダウナルドは諭すように三千花に答える。