聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「権力こそ、その扱いは慎重でなくてはなりません。無闇に振りかざすのは暴力を振るうのと変わりありません」
 言わんとすることはわかる。だが、それではアルウィードは。

「ああ、かわいそうな弟よ。このまま命を落としてしまうのかな」
 芝居がかった様子でレオルークが言う。三千花が睨むと、彼はくすっと笑った。

「今、急いで目撃者などを探しています。誰もが納得する客観的な証拠があれば踏み込めます」
 ダウナルドが言う。

 三千花はイライラしながら自分を抱くように腕を組んだ。
 それはいつになることだろう。そもそも目撃者などいるのか。

「そもそも」というならば、レオルークの話を信じてもいいのだろうか。

 神官の探索魔法では見つからなかったものを、彼が使った魔法ではあっさりと見つかった。彼が嘘をついている可能性は。

 国王やダウナルドはこの探索結果を信じているようだが、それを信じる根拠は。彼が王族であり、兄弟である、それを信じすぎてはいないだろうか。

 レオルークと婚約者が共犯?
 だがそれならレオルークが婚約者の家を指し示す意味がわからない。

 彼女との婚約破棄をしたくてトラブルを起こそうとしている?
 その場合、理由は?

 ロレッティアは「本来なら第一王子と聖母が結婚する」と言っていた。第一王子は聖母と結婚したいのか。
 しかし先日、庭園で会ったとき、彼は結婚そのものにまったく興味がなさそうだった。

 疑い始めたらキリがない。

 誰よりも魔力が強い、とエルンレッドに言われていた第一王子。

 ああ、と三千花は気が付く。

 違和感の正体がわかった気がした。
 ユレンディールたちが迎えに来たときに感じた違和感。

 レオルークが三千花の場所を見つけたと言った。
 アルウィードより魔力が強く、彼にできることのほとんどはできるというレオルーク。

 なのに、ユレンディールたちが迎えに来た。
 レオルークが来た方がきっと効率的で合理的だろうに。

 エルンレッドは言っていた。レオ兄様はきまぐれだから、と。それだけで済む話なのだろうか。治癒以外はできるだろうと言われていたレオルークが異世界転移をできないわけもないだろう。

 つまり、レオルークはアルウィードを心配していない、救出に本気ではない、ということになるのではないか。これは飛躍しすぎだろうか。

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