聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 三千花の提案はすぐに国王に報告された。
 国王は直々に捜査本部に現れ、却下した。

「なぜですか!」
 三千花は豪勢な椅子に座る国王に食ってかかり、周りをざわつかせた。
 国王の隣に立つレオルークは笑いをこらえている。

「不敬だぞ」
 ダウナルドが小声で咎める。

「かまわない、アルウィードを助けるためなら!」
「殿下の御名(みな)の呼び捨ても不敬だ」
 制止をふりきり、表情を変えない国王を見据える。

「なんでそんな冷たいの! あなたの息子のことなのに!」
「そなたが行ったところで何ができる。警戒されて終わりだ」
 国王は無表情に三千花を一瞥《いちべつ》した。

「私は確かに何もできない。だけど! だからこそ向こうも油断しているでしょ? 犯人が婚約者本人か婚約者の関係者か、犯行をなすりつけている第三者なのか、わかりませんけど」

「そんないい加減な状態で行かせられない」
 ダウナルドは三千花を睨みつける。

「いやあ、健気だなあ。私は感動したよ」
 レオルークは大げさに胸に手を当てて目を閉じ、感動を表現した。

「これはもう、彼女を行かせてあげるのがいいんじゃないのかなあ」
 思わぬ援護射撃に、三千花は疑念を持つ。だが、今はこれにのったほうがいいのか。

「アルが死んでからじゃ遅い。私も行くよ。大切な弟だから」
 三千花はイラつく。たやすく彼の死を口にするレオルークに。

 国王は両者を見比べてから、ダウナルドに目をやった。
「貴殿の考えは」
「捜査の者を同行させていただけるならば」

 三千花は目を見開いた。口の端がひくひくする。
 ちゃっかり便乗してきた!

 あきれた三千花の視線を受けながら、ダウナルドは涼しい顔で立っていた。

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