聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 エミュリーは城内をしずしずと歩いていた。
 彼女はアルウィードが拉致されていたことを知らない。公表されていないからだ。

 博物館へ行く途中に聖母の乗る馬車が事故に遭った(・・・・・・)ことは知っていた。そのせいで外泊になってしまったことも、リグロットが重症を負ったことも。

 護衛も命を落とすような大事故だったが、聖母は無事に戻り、リグロットも一命をとりとめ、意識を取り戻した。すでにリハビリを始めているという。

 事故(・・)が起きた責任をとって、彼は辞職を申し出たらしいが、アルウィードや聖母がひきとめたという。結局、降格と減給処分になったと聞いた。

 とにかく聖母様が無事に戻られてよかったわ。正式に聖母様になられたのだし。
 次は何を教えてあげようか、と考えながらエミュリーは歩いていた。聖母様は知らないことが多過ぎて、教えがいがある。

「あら、久しぶり」
 彼女は侍女仲間に声をかけられた。

「久しぶり、メイリーラ」
 エミュリーは笑顔を返した。

 もともと彼女は王妃の侍女になるべく入城した。メイリーラとはそのときに仲良くなった。
 エミュリーは急遽三千花づきとなって異動になったのだが、今でも顔を会わせると立ち話をする程度には仲がいい。

 メイリーラのほかにも数人の侍女がそこにいた。
「なんかうれしそうじゃない」

「聖母様が戻られましたから」
 エミュリーの答えに、メイリーラは驚く。

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