聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「あれだけ嫌がってたのに」
 確かにエミュリーは始めうち、嫌で嫌でたまらなくて彼女に愚痴をこぼしていた。

「まだいるの、あの人」
「あの女のせいでアルウィード様がお倒れになったんでしょ」
 ほかの侍女が口々に文句を言う。

「あの方のせいじゃないわ」
 アルウィードが倒れた件をエミュリーは良く知らない。だが、侍女どころか使用人にまで礼を言う三千花が王子を意図的にそんな目に遭わせるわけはない、と彼女は思っていた。

「なんでかばうの?」
「犯罪者の子孫でしょ?」
 連れの侍女の暴言に、メイリーラはおろおろしていた。優しくて気弱な気質なので、悪口を言う人を止められない。

「聖母様は素敵な方よ」
 エミュリーはむっとして答えた。と同時に、議論しても無駄だと思った。自分も最初は三千花に反感を持っていた。

「メイリーラ、またね」
 言って、エミュリーは歩き出した。

 角を曲がったところで、エミュリーは思わぬ人に遭遇し、立ち止まった。
 気まずそうな三千花が、そこにはいた。彼女の後ろには護衛の兵が二人ほどいた。

「あの……」
 三千花はもじもじしてうつむいた。

「ありがとう」
 その言葉に、エミュリーはカーっと顔が熱くなる。

「なんでここにいるんですか!」
 エミュリーはとっさに文句をつける。 

「警備隊長さんに呼ばれて、行く途中で」
 三千花は照れながら言った。

「あなたをかばったわけじゃないんですから!」
 叫ぶように言い、エミュリーはスタスタと歩き去って言った。

 三千花は呆然とその姿を見送り、それからフフッと笑った。

< 301 / 317 >

この作品をシェア

pagetop