聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 夕方、白石晴湖(しらいし せいこ)はキャバクラに出勤するために家を出た。
 若干の恐怖を感じながら最寄り駅に向かう。

 最近、隣町で三人が惨殺(ざんさつ)される事件があった。
 犯人は捕まっていない。被害者の詳細も犯人の動機も不明。

 現場は晴湖の勤め先とは逆方向に一駅分だ。その近さなら行動範囲家が被っているかもしれない。無差別殺人なら、次の標的は自分かもしれない。

 季節的に、夕方はまだ明るい。
 だから歩く気になるが、夜は真っ暗で怖い。

 いっそタクシー通勤にしようか。節約するなら電車だけど。

 だけど、と改めて晴湖は思う。殺されたら節約も何もあったもんじゃない。まずは身の安全が第一だ。

 折衷案(せっちゅうあん)で、行きは電車、帰りはタクシーにしようと決めた。
 送迎のある店はいいなあ、とため息をついた。

「助けて!」

 前方から悲鳴が聞こえて、晴湖は立ち止まる。
 悲鳴? 何が起きたの?
 心臓が早鐘を打ち始める。

 スマホを取り出し、いつでも110番できるように準備して声の方の様子を窺う。

 角を曲がったところで、女の子が青白い光に包まれていた。円形のその光は地上から空に向かって放射状に伸びている。

 女の子は晴湖に気が付き、手を伸ばす。
 とっさに晴湖も手を伸ばした。
 がし、とその手を掴んだとき。
 光が更に強くなった。

 (まぶ)しい!

 目を閉じると、地面がグラッと揺れた気がした。
 次に(まぶた)を開けると、そこには見知らぬ景色が広がり、見知らぬ人たちが待ち構えていた。





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