聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜




 
 新たな聖母が召喚されたと聞いてからも三千花が帰されることはなく、アルウィードは朝食時に彼女の元を訪れた。彼はこれを日課にすると決めたようだった。

「ほかの聖母が召喚されたって聞いたんだけど」
「そうらしいな」
 不満たっぷりに三千花が切り出すと、アルウィードは平然と答えた。

「らしい? 王子なのに情報知らないの」
「当然知っている」
「もう私は用済みってことよね」
「君が聖母だ。ほかの女性たちは候補でしかない」
 言い張るアルウィードに三千花は辟易(へきえき)した。

「そもそも、召喚したというのが怪しい」
 アルウィードは渋面を作った。
「どういうこと?」
「あちらの特定の人物を召喚することなど、本来はできない。だから君は俺が迎えに行った」
「なら、今回はどうして?」
「調査中だ。それ以上は訊くな」
 アルウィードは言い切った。教える気はないということだろう。

 三千花は別の切り口で()くことにした。
「聖母って、何人も同時に現れるものなの?」
「……過去に出現したときは、一世代に一人らしい。聖母が生きている間にはほかの聖母は現れない」
「じゃあ、やっぱり」
「君が聖母だ」
 堂々巡りになり、三千花は頭を抱える。

「……彼女たちが聖母だと確信しているのか?」
「だって、私は違うし」

「君は帰りたがっているが、彼女たちもそうだとは考えないのか?」
 三千花は言葉に詰まる。
 まったく考えなかったわけじゃない。
 だけど、あまり考えないようにしていた。

「その人たちに会わせて」
「それも無理だ。安全性も真偽も不明だ」
「真偽って?」
「聖母かどうかの真偽だ」
「城の中にいるの?」
 アルウィードは答えなかった。

「毎日毎日、暇なの。同郷の人に会うことくらい許してよ」
 言ってから気がついたが、果たしてそれは日本人なのだろうか。
「暇なんだったら、いい考えがある」
 アルウィードがにやりとした。
 三千花は嫌な予感がした。

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