聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
退屈だと文句を言う三千花に、教育係がつくことになった。朝食後にすぐに「先生」が来ると言うから、あのときの思いつきではなく、もっと前から準備していたに違いない。
主に文字や礼儀を勉強しろという。
「帰るんだからそんなの覚える必要ないのに。っていうか、魔法でパパっとわかるようにならないの?」
「そんな便利なものはない」
アルウィードは即答した。口頭の言語を翻訳する魔法の道具はあるのに、と三千花は文句を言った。その文句をアルウィードは黙殺する。
あ、と思いついて、三千花は期待に目を輝かせた。
「魔法の勉強ならやる」
珍しく前向きな発言にアルウィードは目をみはる。が、三千花をジロジロ見たあとに、言う。
「君には魔法の才能がなさそうだが」
三千花はムッとした。
「じゃあ何もやらない」
なんで異世界の勉強などしなければならないのか。
「勉強しないなら魔法も教えない」
三千花はアルウィードを軽く睨む。彼はまたにやりと笑った。
三千花はプイと横を向く。
「子供っぽいことをするな。かわいいだろうが」
アルウィードは座っている三千花を抱きしめるようにして額にキスをした。
そして、時間だから、と彼は立ち去る。
なんでいちいちキスするんだ。
三千花はおでこを拭う。
彼が立ち去ったあと、三千花は窓辺に寄る。
なんとか下に降りられないだろうか。
だが、降りたところでどこへ逃げると言うのか。
悩んでいると、ふいに空中に黒猫が現れた。口に何かをくわえている。