聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 大学では芳和子(はなこ)は目立つ存在ではなかった。
 自分の良さをわからないバカが多すぎる、と思っていた。

 陽キャばかりか普通の奴までもが彼女を陰キャだと見下すのも気に入らなかった。バカばっかりだから、心を許せる友達などいなかった。

 もう20歳だというのに彼氏がいないのも、周りに見る目がなさすぎるせいだ。見た目ばっかり重視して、中身のない女に浮かれる頭の悪い男たち。

 芳和子はふん、と鼻を鳴らした。
 ドレスが似合わないのも気に入らない。普通「聖母候補」なんてものに選ばれている人物に、似合うドレスを仕立てないなんてことがあるのか。

 そもそも自分の名前からして気に入らない。キラキラしてないくせに、芳和子なんて一発で読めない。
 廊下から笑い声が響いてくる。
 まるでバカにされているみたいだ。

「うるさいんだけど!」
 こらえきれなくなって、扉に向かって怒鳴る。

 廊下は一瞬シンとなり、その後、ドアがノックされた。
 侍女が対応に出ると、晴湖(せいこ)が一歩入ってきた。

「いきなり怒鳴るのやめてくれない?」
 現れた晴湖はとてもドレスが似合っていた。
 化粧もばっちりで、髪型もキレイに整えられている。

 晴湖はあんなにドレスが似合っている。きっと似合うドレスを(あつら)えてもらっているに違いない。
 そんなふうにチヤホヤされれば、自然と自信だってつくし、だからあんなにみんなと打ち解けて、快活で美しくしていられるのだ。

「……うるさいから」
 芳和子は下を見てボソボソと言う。
「怒鳴る前に普通に言ってくれたらわかるから。うるさくしてごめんね」

 晴湖は侍女にも「ごめんね」と笑顔を向けて去っていった。
 芳和子の鬱憤(うっぷん)は増すばかりだった。

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