聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜


 * * *


 急に始まった「教育」に、三千花は閉口した。
 彼女には必要のない知識ばかりだ。
 文字、ダンス、礼儀作法。
 昼食の時間は食事マナーの時間になった。

 侍女のエミュリーも一緒に「勉強」に参加していた。
 各先生は彼女を()め、三千花にダメ出しを続けた。
 三千花と目が合うと、エミュリーは得意げにツンと顎を上げる。

 くっそおおお。歩き始めたばかりの子供に一〇〇メートル走で勝負して勝ったようなもんじゃないか。そんなんでうれしいのか。

 悔しい。
 負けず嫌いの根性が頭をもたげてくる。
 だが、ここで頑張ったらアルウィードの思うつぼのようにも思う。
 負けたくない、だけど!
 勉強の時間は葛藤の時間になった。

 三時になったら、勉強は終了した。
 先生の退室と入れ違いに、アルウィードが来た。お茶のセットとともに。

「ごほうびだ」
 三千花は顔を輝かせ、椅子から立ち上がった。

「俺よりお茶がうれしいのか」
 ティーワゴンに目が釘付けになっている彼女を見て、アルウィードは苦笑した。そんなことにかまわず、三千花はエミュリーを振り返る。

「エミュリーさん、お茶だって!」
 言われたエミュリーは目を丸くした。
 しばらくして、
「さん、は不要でございます」
 と言った。

「でも……」
「立場、というものがある。君のほうが上なんだから、呼び捨てにしなくてはならない」
「変なルール」

 アルウィードの言葉にあきれると、
「俺のことは?」
 彼はさっと三千花の腰を抱いた。

 しまった、油断した!
 彼女はそれ以上をされないように、うつむく。

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