聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「急な神託で緊急に行われたと事後報告を受けました。ですが、今までそのような前例はありません。あらゆる点で不審があります。しかし、神託を否定する証拠もありません」

 大神官長であるライアルードは魔力はあるが、神託を受ける能力がない。神託は専門の神官が行う。彼にはその真偽がわからず、胡散臭(うさんくさ)いと思っている。

 聖母の出現に関する情報は、流星とともに現れる、という伝説があるのみだ。
 異世界からやってきたとか神の世界からやってきたとか、その出身については諸説ある。

 ゆえに、その伝説を利用すれば聖母のでっちあげも不可能ではない。
 流星群は年に何回も観測されている。それを利用すれば簡単だ。

 実際、聖母の偽物は時折現れ、詐欺などの犯罪にその名を利用されている。

 ジャンレットはため息をついた。何者かが策謀を企むのはよくあることだ。また対処しなくてはならない。

「第一の聖母候補はアルが探し出したのだが、どうだ」
「私よりも魔力の大きな殿下がおっしゃるのなら本物かもしれませんが……もとより、聖母たる者が現れたとして、その予兆、確たる証などはないのです。あるのは流星とともに現れるという不確かな伝説だけです。それすらも、古い時代の舞台作家が作った設定だという噂があります」

 ライアルードは言葉を切って兄王を見た。
「誰かが判定しなくてはならない、ならば神殿がやるべき、と、そう決まっているだけなのですから。過去のほとんどの場合、結果があってから聖母と認定されています。陛下もご存知のはずです」

「その通りだが……第一候補についての事前の託宣はなかったな」
「ありません」

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