聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 三千花が連れてこられてすぐ、神殿では彼女が聖母であるのか神に伺いを立てた。だが、神は肯定も否定もしなかったという。

「前から言っていますが、私は神託を信じておりません」
 大神官長らしくない発言だが、何回も聞いている彼らは驚かない。

「たいてい、どうとでもなるような抽象(ちゅうしょう)的で曖昧(あいまい)なものばかり。今回も第一候補に関しては「時が満ちれば自明となる」という、どうとでも取れるものでした。その曖昧さが神の意志と言われたらどうにもなりませんが」
 反論する者は誰もいなかった。

「私は神託を受ける者がトランス状態になって神託を受けている気になっている場合がほとんどだろうと思っています」
 ライアルードの声は冷静だった。

「三千花は本物だ」
 アルウィードが割って入る。
「ですが、その直感を正しいと証明するものがございません」
 大神官長らしく、(おごそ)かにライアルードは告げた。

「逆に、すべて本物であるかもしれません。現時点ではそのようにしか申し上げられません。さらに言うならば」
 ライアルードはアルウィードを見た。

「可能性だけなら、アルウィード殿下が権勢を強めるために聖母伝説を利用しようとしている、ということも指摘できます」
「そんなことはしない」

「もちろんでございます。本当にそう思っているならここで申しません」
 アルウィードは顔をしかめ、ユレンディールを見た。

 彼の父ライアルードはすべての神官の長である最高神祇官(さいこうしんぎかん)、大神官長だ。
 前任の大神官長、ギリアム・シィン・スレイトンはライアルードの妻アミリエアの父だった。当時の大神官長の娘を(めと)ることで、神殿の力を国の政治に活かすための結婚だった。

 だが、返って国の力を神殿に取り込もうとする勢力も現れた。
 ギリアムを筆頭としたその勢力はユレンディールを次代の王に担ぎ上げようとしている、との噂も流れている。

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