27番目の婚約者
優しく歪んだ愛の中で
ニナと呼ばれたアリシアは呻き声を上げながら上体を起こす。
伏せていた顔をゆっくりと上げれば、そこにはあどけなさが残るいつものアリシアはいなかった。
代わりに、憂えを帯びた表情の大人の女性がいる。
ニナは柳眉を逆立てるとジェラールを睨み付けた。
「ジェラール! どうして私の生まれ変わりにまで執着するの? まさか自分の視力と引き換えに、私の魂に追跡を刻印するなんて!」
ジェラールが行ったのは対価を必要とする魔術――いわゆる禁術だ。
アリシアは気づいていないが彼の左目は光を認識するだけでほとんど見えていなかった。
「視力を失ってニナを見つけられるなら惜しくない。それより酷いのはニナの方だ。私は生涯をあなたに捧げると誓ったのに、まさか私から逃げようとするなんて。私はあんなに愛していたのに」
ジェラールの手が頬に伸びてきたので、ニナは勢いよく払い除ける。しかし、その表情は真っ青だ。
「私は平民上がりの魔術学院に通うただの生徒。あなたは将来有望なこの国の貴族。身分が違いすぎるし、人生を棒に振りたくなかったの」
ジェラールとニナが出会ったのは永世中立国にある魔術学院。ジェラールがいる国は魔術者が少なく、技術があまり発展していないため、魔術が使える貴族の子供は教育がしっかりと行き届いた魔術学院へ留学するのが習わしとなっている。
ジェラールもそれに倣って魔術学院へと留学していた。そしてニナはその永世中立国に暮らす平民で魔術が優れていたため特待生として入学していた。
ジェラールはニナに恋をしたが、ニナの方はまったく恋愛感情を抱いていなかったし、現実主義な思想を持っていたので身分違いの恋なんて絶対にしないと誓っていた。
どれだけ言い寄られてもニナがジェラールに靡くことはなく、学院を卒業すると逃げるように姿を眩ました。が、ジェラールは諦めなかった。