龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
「……どうやら、犯人は君ではないな」
クロップス卿がそう断じると、ついさっき彼に耳打ちしたトムが騒ぎ出した。
「団長!オレ、言いましたよね?そいつがウゴルを混ぜたのを見たって」
「ああ、確かに聴いたな」
「なら、どうして…!」
トムが赤い顔をして震えていると、クロップス卿はなんでもない顔でこう答えた。
「やってきてわずか2か月で気難しいイッツアーリの好物を把握している…ドラゴンと真摯に向き合っている証だよ。それに対して、君はイッツアーリの好物を訊いた時になんと答えたかね?」
クロップス卿にそう言われ、トムの身体がビクッと揺れる。
「君は“シカ肉”と答えた。ドラゴンに与える食料としてはスタンダードだが、イッツアーリはいつも出されるから仕方なく食べているのだよ。彼の好物はアリシアの言うとおりうずら肉だ」
クロップス卿のその言葉が事態を一変させた。
「そ、そうです!アリシアはいつもドラゴンたちの心配をしてます。どんな職員より心を砕いて、体調不良のドラゴンがいれば、徹夜で看病するくらいです。竜騎士候補生で忙しいのに、朝4時起きで毎朝。夜も10時過ぎまで手伝ってくれるんですよ。おれは厩務員になって20年経ちますが、これほどドラゴンを大切にしてる候補生は見たことありませんよ!こんなアリシアが、ドラゴンを害するなんてあり得ません」
仲よくなった厩務員のトミーまで弁護してくれて、涙が出そうなくらい嬉しかった。