龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
「そうですね。私はアリシアの故郷時代から知っていますが、彼女ほどドラゴンや幻獣を大切にする方は見たことがありません」
澄んだ水のような、伸びやかで心地いい響きの声。
「ヴァイスさん!」
「ヴァイス殿下…!」
あたしとトムの声が、ほぼ同時に重なる。
ヴァイスさんはいつも通りにこやかな顔だけど、どこか凄みがある笑顔をしていた。
《アリシア!》
ファイアドラゴンのバーミリオンまで駆けつけ、あたしを取り囲む人々に凄んだ。
《おいおい、アリシアを犯人扱いしやがったふざけたヤローはどいつだ?ああん!?オレ様のファイアブレスで消し炭になる覚悟はあるんだろうな!?》
通常ならばあたしとヴァイスさん以外聴こえないバーミリオンの“声”だけど、なぜかトムがファイアブレスを見て顔色を変えて震えだした。
「彼は、アリシアが故郷で卵から孵った幼竜の状態から育て上げたファイアドラゴンです。わずか6歳の頃から、幼竜を育てたのですよ?専門家(プロ)でさえ難しいことを、アリシアは1人でやり遂げたのです。そんな彼女が、害意を持ってウゴルを食べさせたかと思えますか?」
ヴァイスさんの言葉に、皆が押し黙る。そして、彼は言葉を付け加える。
「第一、ウゴルを最初に見つけたのはアリシアです。彼女は私や厩務員にすぐ報告し、自分の担当するドラゴンの食料から取り除きました。以後、彼女は経過をつぶさに報告してくださり、騎士団長のクロップス卿も事態を把握されてらっしゃる。ですから、卿にいまさら何を吹き込んでもムダですよ」